テーブルを囲む五人のうち、二人はお酒を飲みません。運転する人、体調を考えている人、そもそも好まない人。理由はいろいろです。
そこで甘いジュースだけが出てくると、食卓の速度がずれます。料理は進むのに、その一杯は二口で飽きてしまう。食中のノンアルコールとは、料理と並走して味を引き立てる、酒以外の一杯のことです。
条件はワインとほぼ同じ。甘すぎないこと、酸か苦みがあること、香りに幅があること。

食中の一杯に求められるもの
ワインが料理に効く理由は、大きく三つあります。酸が脂を切ること。渋みや苦みが味を締めること。香りが料理の香りと響き合うこと。
裏を返せば、アルコールがなくてもこの三つを備えていれば、食中の一杯として成立します。
問題になるのは糖度です。市販のジュースの多くは甘みが強く、一口目はおいしいのに、料理と交互に飲むと口の中に甘さが溜まっていく。脂ののった料理や塩気のある腸詰めと合わせると、それがはっきり出ます。
だから食中を狙うなら、甘さを減らし、酸と苦みを足す。炭酸を加えて口の中を洗う。この方向で組み立てます。ペアリングの考え方は、酒でなくても同じように使えるということです。
スペインの飲みもの棚から
スペインには、もともと酒以外の飲みものの文化があります。
オルチャータ。 バレンシアで親しまれる、チュファという小さな塊茎から作る乳白色の飲みもの。ほんのり甘く、ナッツのような香ばしさがあります。甘さがあるので食中よりは休憩向きですが、灼熱の夏の一杯としては理にかなっている。
冷たいスープを飲みものとして。 ガスパチョやサルモレホは、グラスに注げばそのまま飲みものになります。トマトの酸とオリーブオイルのコク。食中の一杯として、これほど料理に馴染むものもありません。パンが果たす役割を知ると、なぜあの飲み口になるのかもわかります。
炭酸水と柑橘。 もっとも素朴で、もっとも外れない組み合わせ。レモンやオレンジを搾って、香りだけを足す。アンダルシアの食卓では、これが日常です。
果実のインフュージョン。 ハーブや香辛料を水出しにしたもの。スペインの香辛料の使い方をそのまま飲みものに応用する発想で、苦みや渋みを作れるのが強みです。
脱アルコールという選択肢
近年は、ワインからアルコールだけを取り除いた飲みものも広がりました。仕込みはワインと同じで、最後に加熱や減圧、膜処理でアルコールを抜く。
香りの成分はアルコールと一緒に飛びやすいので、造るのは簡単ではありません。ただ、辛口の白やロサードに近いタイプ、泡のあるタイプは食中でよく働きます。カバのように泡で口をリセットする役割は、アルコールがなくても果たせるからです。
甘口に振れた製品も多いので、選ぶときはそこだけ確認するといい。
料理との相性
炭酸と柑橘の一杯は、揚げ物に強い。カラマリ、クロケッタ、パタタス・ブラバス。泡が油を流し、酸が後味を切ります。
苦みのある飲みものは、焼いた野菜やピミエントス・デ・パドロン、アーティチョークといった、青みのある皿に寄り添う。同じ方向の味を重ねる合わせ方です。
冷たいトマトのスープは、イワシの炭火焼きや生ハムと並べると、それぞれの塩気が引き立ちます。薪火の料理のような香りの強い皿には、香ばしさのあるお茶やハーブの水出しが意外に効く。
タパスを何品も頼む食べ方や、店を渡り歩く夜でも、飲まない人が置いていかれる理由はありません。温度を意識し、グラスをワインと同じものにするだけでも、一杯の格は変わります。当店でも、お酒を召し上がらない方の食中の一杯をご用意しています。ほかの話はコラム一覧からどうぞ。