厨房の隅で、料理人が黙々と葉を剥いています。剥いた葉は次々と桶に落ちていく。ひとつ剥き終わったとき、手元に残っているのは、最初の大きさの三分の一ほど。
アルカチョーファ(Alcachofa)とは、スペイン語でアーティチョークのこと。キク科の植物のつぼみを食べる、地中海沿岸ではおなじみの野菜です。
食べられる部分は、ごくわずか。それでもこの野菜が愛されてきた理由を、順に見ていきます。

アルカチョーファとは
食べているのは、花が咲く前のつぼみです。
外側は硬い葉が幾重にも重なった、まさに鎧のような構造。これを一枚ずつ剥がしていくと、中心に柔らかい部分が現れます。芯のあたりを「コラソン」、つまり心臓と呼ぶ。名前のとおり、ここが本体です。
味は、ほろ苦い。青くて、少し甘くて、後に軽い渋みが残る。癖のある野菜ですが、この苦みこそが持ち味とされます。春の芽吹きが持つ苦みと甘みを、もっとも素直に体現している食材かもしれません。
小ぶりのものは葉ごと食べられ、大きいものは芯を取り出して使う。同じ野菜でも、サイズで扱いが変わります。
産地と、旬のこと
スペインは主要な生産国のひとつで、地中海沿岸のムルシアやバレンシア、内陸のナバーラなどが知られた産地です。
旬は、おおむね秋の終わりから春先まで。冬を越して春に出るものは、寒さで身が締まると言われます。市場に山積みになる時期が、そのまま食べどきです。
ナバーラのように、原産地呼称に類する仕組みで産地表示が管理されているものもあります。土地ごとに味が違うという考え方は、チーズやワインだけの話ではありません。
北部のカスティーリャでも、地中海沿いのカタルーニャでも、それぞれの調理法で食卓に上ります。

下処理という関門
この野菜の面倒さは、下処理に集約されます。
外葉を根元から折るように剥がす。硬い部分がなくなるまで、遠慮なく続ける。上部は苦みが強いので切り落とす。茎も皮を厚く剥く。中心に毛のような部分があれば、スプーンでかき出す。
そして、切った端から黒く変色します。ポリフェノールが酸化するためで、これを防ぐためにレモン水や、パセリを入れた水に浸けておくのが一般的です。
作業を終えると、山のような葉が残る。捨てる部分の多さ、それが値段の理由です。 手間と歩留まりの悪さが、そのまま価値になっている。取り出す手間が希少さを生むという点では、肉の希少部位とも似た構図です。
焼く、揚げる、煮込む
下処理さえ終われば、あとは素直な食材です。
もっとも直接的なのは、薪火で焼く方法。半分に割って断面を熾火に向け、焦げ目をつける。炭火の使い分けが効く場面で、香ばしさが苦みと釣り合います。仕上げは粗塩とオリーブオイルだけで十分。
薄切りにして高温でさっと揚げると、葉がぱりぱりに開きます。衣一枚で勝負するカラマリのような衣は使わず、素揚げにすることが多い。
煮込みに入れることもあります。ひよこ豆やいんげん豆と合わせたり、生ハムの塩気と炒め合わせたり。苦みのある野菜は、油と塩気を得ると急に食べやすくなります。
焼くだけで旨みが増すエスカリバーダや薪火で変わる野菜の考え方が、そのまま応用できる素材です。
ワインとの相性
正直に言えば、難しい相手です。アーティチョークに含まれる成分が、ワインの味を甘く感じさせることがある。そう指摘されてきました。
対策としては、酸のはっきりした白を選ぶこと。チャコリのような、きりっとした軽い白は苦みを流してくれます。リアス・バイシャスも、ミネラル感が野菜の青さと同じ方向を向きます。
焼いて香ばしさが出た場合は、ロサードや軽めの赤も選択肢に。グラスの形を変えるだけでも、香りの出方が違ってきます。
剥いて、削いで、残ったところを食べる。効率とは無縁の野菜です。それでも季節が来れば厨房に並ぶ。ほかの春野菜の話はコラム一覧からどうぞ。