栓を抜くと、静かな音がします。グラスの底から立ちのぼる泡は細かく、途切れない。いかにも祝いの席の酒に見えて、スペインではもっと気軽に、平日の夕方にも注がれています。

カバとは、瓶の中で二度目の発酵を行い、そこで生まれた炭酸ガスをそのまま閉じ込めたスペインのスパークリングワインのこと。造り方はシャンパンとほぼ同じです。それでも、味わいは明確に違う。

なぜ違うのか。その答えは、製法ではなく土地と品種のほうにあります。

ワイン畑に実るぶどう

カバとは

まず、泡の作り方には大きく二通りあります。タンクの中でまとめて発酵させる方法と、瓶ごとに一本ずつ発酵させる方法。カバは後者です。

瓶に詰めたワインへ糖と酵母を加え、栓をする。瓶の中で発酵が進み、逃げ場のない炭酸ガスが液体に溶け込んでいく。その後、役目を終えた酵母の澱とともに数か月から数年寝かせます。この澱との接触が、パンの耳のような香ばしい香りを生む。

手間はかかります。一本ずつ、瓶を少しずつ回して澱を口元に集め、凍らせて抜き取る。この地道な工程が、細かく持続する泡と複雑な風味を作っています。スペインの原産地呼称の枠組みでも、この製法が条件として定められています。

シャンパンとの違いはどこにあるか

製法が同じなら、何が分かれるのか。三つあります。

品種が違う。 シャンパンはシャルドネなどを使いますが、カバの主役は土着の白ぶどうです。なかでもマカベオ、パレリャーダ、チャレッロという三品種が骨格をつくります。それぞれ酸、香り、コクを分担していて、単独ではなく組み合わせで完成する設計です。

気候が違う。 シャンパーニュは冷涼な北の産地。対してカバの主産地はカタルーニャを中心とした地中海性気候の土地です。陽射しが強く、ぶどうはよく熟す。その結果、酸は穏やかになり、果実の丸みが前に出ます。

結果として、味わいが違う。 シャンパンの張りつめた酸に対し、カバはもう少し親しみやすい。柑橘や青りんごの印象に、熟した果実のふくよかさが重なります。優劣ではなく、性格の違いです。

甘辛の表記と、熟成の区分

ラベルには、残っている糖の量を示す言葉が並びます。ブルット・ナトゥーレは糖をまったく足さないもっとも辛口のタイプ。ブルットが一般的な辛口。セコ、セミセコと進むにつれて甘みが増していきます。

食事に合わせるなら、辛口の側から選ぶのが無難です。甘口はポストレの時間や、トゥロンのような焼き菓子に寄り添います。

熟成期間による区分もあります。澱とともに寝かせる期間が長いほど、泡はきめ細かくなり、香ばしさが増す。長期熟成のものは、クリアンサやレセルバといった赤ワインの熟成表記と同じように、時間そのものが味の一部になっています。時間が造り手になるという点で、考え方は共通しています。

料理との相性

カバの強みは、泡と酸が口の中を洗い流すことです。だから揚げ物と相性がいい。カラマリのフリットクロケッタパタタス・ブラバス。衣の油をすっと切って、次の一口を待たせます。

生ハムチョリソーのような塩気のある腸詰めにも合う。塩と泡は、たがいを引き立てます。アサリムール貝といった貝類、生牡蠣に近い立ち位置の魚介なら、辛口のカバがまっすぐ寄り添う。

同じ土地の料理と合わせるという定石も効きます。カタルーニャのパン・コン・トマテエスカリバーダロメスコソースを添えた一皿は、カバの故郷の味。ペアリングの基本でも触れたとおり、産地が重なるとき大きく外すことはまずありません。

何を頼むか決まっていないときの一杯目としても、カバは働きます。タパスを何品か並べるなら、料理を選ばない泡から始めるのが結局いちばん楽。温度はよく冷やして、グラスは細長いものより少し膨らみのあるほうが香りは開きます。当店でも、最初の一杯にお選びいただくことが多い一本です。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。