どのバルに入っても、たいていメニューにあります。角切りの揚げじゃがいもに、赤いソース。爪楊枝が刺さって出てくる。まず一皿目に頼まれる、そういう料理です。

パタタス・ブラバス(Patatas Bravas)とは、揚げたじゃがいもに辛みのあるソースをかけたスペインのタパス。「ブラバス」は「荒々しい」「気の強い」といった意味で、ソースの性格を表しています。

じゃがいもは、どこでも同じ。違うのは、赤いほうです。

バルのカウンターに並ぶ小皿

パタタス・ブラバスとは

構成は、単純そのもの。

じゃがいもを一口大の角切りにして揚げる。皿に盛り、ソースをかける。それだけです。器具も技術も特別なものは要らない。だからこそ、スペイン中のバルに定着しました。

じゃがいもは外がかりっと、中がほくほく。この状態を作るのが唯一の技術的な要点です。中がとろけるクロケッタとは逆で、こちらは中身が締まっていてほしい。

そして、上にかかるソース。ここから話が複雑になります。

ブラバスソースの正体

「赤いから、トマトソースだろう」と思われがちですが、伝統的なものはそう単純ではありません。

古い作り方では、トマトを使わないとも言われます。オリーブオイルで小麦粉を炒め、ピメントンを加え、スープでのばして酢で締める。赤い色は、トマトではなくパプリカパウダー由来。辛みは、辛口のピメントンやカイエンヌから来ます。

ピメントンの燻した香りが入るかどうかで、ソースの性格はまるで変わる。ピメントンが放つ香りは、この料理の骨格そのものです。

一方、現代の多くの店ではトマトをベースにしたものを使います。作りやすく、味も安定する。どちらが正しいという話ではなく、両方が並存しているのが実情です。

マドリードとバルセロナ

地域によって、流儀が分かれます。

マドリード周辺では、赤いブラバスソースのみをかけるのが基本形とされます。辛さがはっきりしていて、これ一種類。

カタルーニャ、とくにバルセロナでは、赤いソースと白いアリオリの二種類をかける店が多い。赤の辛さと、白のニンニクとコク。二色が皿の上で重なります。見た目も華やかで、こちらを本場と思っている人も少なくありません。

さらに店によっては、マヨネーズベースの白ソースを使ったり、辛さをほとんど効かせなかったり。「辛いのか、辛くないのか」からして統一されていない。 店ごとに味が違うのが当たり前という点では、家庭料理から出てきたタパスらしい性格です。

ピンチョスの街であるバスクや、アンダルシアにも、それぞれの解釈があります。

ソースをかけたパタタス・ブラバス

揚げ方の要点

じゃがいもをうまく揚げるには、二度揚げが定石です。

一度目は低めの温度で、中まで火を通す。取り出して休ませる。二度目は高温で、表面だけを一気に色づける。これで外はかりっと、中はほくほくになる。

品種選びも効きます。でんぷん質の多いものは中がほくほくになり、粘質のものは形が残る。求める食感で使い分けます。

揚げたら粗塩。ソースをかける前に塩気を入れておくと、味が立ちます。塩ひとつで料理が変わるのは、揚げ物でも同じです。

ソースは、熱いじゃがいもに直前にかける。早くかけると、せっかくの衣が湿ってしまう。

どう頼み、何と合わせるか

立ち飲みのカウンターで、まず頼む一皿。分け合う前提の量で出てくるので、複数人で囲むのが自然です。

続けてエンサラディージャクロケッタトルティージャを追加していく。この並びが、スペインのバルの定番コースです。

飲み物は、冷えたビールか、ロサード。辛みと油を、冷たい酸で流す。ベルモットを合わせるのも、昼のバルらしい選択です。

赤ワインなら、ガルナッチャの果実味が辛さを和らげてくれます。温度を低めにしてやると、なお飲みやすい。

じゃがいもを揚げて、ソースをかける。それだけの料理に、これだけ流派がある。ほかのタパスの話はコラム一覧からどうぞ。