夏の午後、畑を歩くと目が痛くなります。地面が白いからです。石灰質の土が日差しを跳ね返し、足元から照り返してくる。
ヘレスとは、スペイン南西部の町の名前であり、そこで造られる酒精強化ワインの産地名でもあります。英語ではシェリーと呼ばれますが、その語自体がこの地名から転じたものです。
土地の名が、そのまま酒の名になっている。 この一致には理由があります。

アルバリサという白い土
産地の核心は、土にあります。
アルバリサと呼ばれる土壌は、石灰を多く含んだ白い土です。太古の海の堆積物に由来するとされ、掘ると層状になっている。この土には、二つの働きがあります。
一つは、光の反射。表面が白いので日射を跳ね返し、ぶどうの房を下からも照らします。もう一つは、水を保つ力です。雨の少ない土地でありながら、雨季に降った水を土が抱え込み、乾季にゆっくりと根へ返していく。表面が乾いて硬い殻のようになり、内部の水分の蒸発を防ぐとも言われます。
厳しい乾燥の中でぶどうが生き延びられるのは、この土のおかげです。 土が違えば、酒も違う。土地が味を決めるという話の、わかりやすい例だと思います。
三角地帯と、二つの風
産地には、おおよその範囲があります。ヘレスの町と、大西洋に面した港町、そして河口の町。この三つを結んだ内側が中心地とされ、三角地帯と呼ばれます。
気候を決めているのは、二つの風です。
大西洋から吹き込む湿った風は、蔵の中に湿気を運びます。内陸から吹く乾いた熱風は、逆に空気を乾かす。この二つがせめぎ合う中で、蔵ごとに微妙な環境の差が生まれます。
海に近い蔵ほど湿度が高く、酵母の膜が厚く保たれる。だから河口の町で熟成されたものは、いっそう軽やかで塩気を帯びたマンサニージャになります。同じ造りでも、蔵の立つ位置で性格が変わる。
蔵の建物にも工夫があります。天井を高くし、窓を高い位置に小さく開け、床は土のまま。打ち水をして湿度を保ち、内部の温度を一定に近づける。外が焼けつく日でも、蔵の中はひんやりしています。畑だけでなく、建物までが酒の一部になっている。
何が造られているのか
主役の白ぶどうは、それ自体には強い個性を持ちません。この淡白さが、熟成で複雑さを受け入れる余白になります。
造られた素のワインにアルコールを加え、度数によって進む道が分かれる。低めに設定すれば液面に酵母の膜が張り、高めに設定すれば膜は張らずに酸化が進む。フィノとオロロソを分ける仕組みが、ここで働きます。
そして熟成。年代の違う樽を段に分け、下から出しては上から補充していくソレラの仕組みに載せられます。だから収穫年の表示がない。ヴィンテージの考え方とは、設計思想がそもそも違うわけです。
甘口もあります。天日で干したぶどうから仕込むペドロ・ヒメネスは、同じ産地から生まれる正反対の顔です。
同じ土地で造られるシェリー酢も、この一連の技術の延長線上にあります。
料理との相性
産地の酒は、産地の料理と合う。ここでもそれは当てはまります。
ヘレスはアンダルシアの西端にあり、海が近い。アンダルシア風の揚げもの、ボケロネス、炭火の小イワシ、アサリ。辛口の淡いタイプが、これらの塩気と油をすっと切っていきます。
アセイトゥナスや乾いた木の実を横に置いて、立ち飲みのカウンターで一杯。この土地では、それが日常の風景です。
色の濃い酸化熟成のタイプなら、もっと力のある皿へ。きのこ、内臓の煮込み、ラボ・デ・トロ、熟成チーズ。イベリコ豚の脂とも噛み合います。
食前の一杯から食後の甘口まで、一つの産地で食事の全行程をまかなえてしまう。そんな土地は、そう多くありません。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。