水を抜く。ただそれだけの操作で、果実はまったく別の食べ物になります。

フルトス・セコス(frutos secos)とは、スペイン語で「乾いた果実」。アーモンドやくるみ、松の実といったナッツ類、そしてレーズンや干しあんずなどのドライフルーツをまとめて指す言葉です。水分を抜くことで甘みや旨みが凝縮され、しかも長く保つ。

主役の座に座ることは、めったにありません。前菜からメイン、デザートまで、たいてい端のほうにいる。それでも、抜くと料理が痩せる。そういう立ち位置の食材です。

アーモンドやレーズンを盛った三つの器

フルトス・セコスとは

中身は、大きく二系統に分かれます。

ひとつは「堅果類(ナッツ)」。アーモンド、くるみ、松の実、ヘーゼルナッツ。もうひとつは「乾燥果実(ドライフルーツ)」。レーズン、干しあんず、いちじく、なつめやし。天日や乾燥機で水分を飛ばし、栄養と風味を閉じ込めた保存食という点は共通しています。

メルカド(公設市場)に行くと、この棚がまず目に入ります。量り売りの専門店も珍しくない。日常の食材として、それだけ深く根づいているということです。バルのカウンターでそのまま酒の肴になり、厨房では食感と香りの担当になる。一枚の食材で二役こなします。

歴史・由来

冷蔵庫のない時代、果実と種実を残す方法は限られていました。乾かす。地中海沿岸で古くから発達してきたのは、それが最も確実だったからです。塩と時間だけで鱈を保たせるバカラオと、考え方は同じ系譜にあります。

イベリア半島には古代からアーモンドやくるみが伝わっていました。転機はその後です。イスラム統治時代(アル=アンダルス)を通じて、干しぶどうやドライアプリコットの使い方、さらには蜂蜜やスパイスと組み合わせる菓子文化が花開いたといわれています。スペインの蜂蜜が土地ごとに味を変える豊かさも、この文脈のなかにあります。

そして甘みとコクの層は、菓子だけにとどまりませんでした。肉料理や煮込みにナッツやドライフルーツを加える手法として受け継がれ、いまのスペイン料理の随所に痕跡を残しています。

特徴・味わいのポイント

この食材が皿に持ち込むものは、三つです。

食感 ― アーモンドやくるみの歯ごたえは、なめらかなソースや煮込みに置かれると際立ちます。柔らかい料理のなかで、そこだけ硬い。その段差がリズムになります。

甘み ― レーズンや干しあんずの濃縮された甘みは、塩気の効いた料理と当てることで力を発揮します。単体で甘いだけなら菓子ですが、塩と並ぶと余韻に変わる。

香り ― ローストしたナッツの香ばしさは、スペインのオリーブオイルと、そして炭火と薪火が生む香りとよく調和します。どちらも火が通った香りだからです。煙の芳香が食材に移る仕組みを思えば、ナッツの香りが薪火の皿に馴染む理由は明らかでしょう。

煎り上げられたアーモンド

代表的な使い方

脇役と書きましたが、例外があります。冷製スープ「アホブランコ」。アーモンドとにんにく、パンをすり潰して仕上げる一皿で、ここではナッツそのものが主役です。火を使わずに仕立てるガスパチョと同じ土地の知恵ですが、色は白い。

ソースに回ると、また働き方が変わります。「ロマスコ」や「サルサ・デ・アルメンドラ」では、アーモンドがとろみと風味の両方を受け持つ。小麦粉も乳製品も使わずにソースを立てる方法として、これは相当に賢い。タコのガリシア風(プルポ)や白身魚料理に添えられます。

煮込みでは、コシード(スペインの煮込み)や肉の煮込みにレーズンや松の実を落とし、甘みとコクを補う手法が伝統的に見られます。チョリソー(スペインの腸詰)や生ハムの盛り合わせに素揚げしたアーモンドを添えるのも定番です。

そして最後はデザート。アーモンドを使った焼き菓子トゥロンや「サンティアゴのタルト」。前菜から菓子まで、この食材は一皿も休みません。

産地とバリエーション

ナッツの主産地は、地中海沿岸に集まります。カタルーニャ、バレンシア、そしてアンダルシア。とりわけカタルーニャの一部地域はロマスコソースの発祥地として名高く、そこで使われるのは地元産のアーモンドとヘーゼルナッツです。ソースの発祥地が原料の産地でもある——順番としては、そちらが先だったはずです。

ドライフルーツは、乾燥に適した気候のアンダルシア地方などでレーズンや干しいちじくの生産が盛ん。加えて、中東やカリフォルニア産のなつめやしやアプリコットも市場でよく見かけます。国内の恵みと海の向こうの恵みが、同じ棚に並んでいる。

料理・ワインとの相性

香ばしさと凝縮した甘み。この二つは、赤ワインの果実味やスパイス感と素直に噛み合います。ローストしたアーモンドを添えた前菜なら、果実味豊かなガルナッチャ。あるいは樽由来のニュアンスを持つクリアンサ・レセルバ。乾かして凝縮させた食材と、樽で寝かせたワイン——どちらも時間の産物です。発酵が結ぶチーズとの相性と同じ理屈が、ここにも働いています。

Opus 6(セイス)でも、薪火で香ばしく仕上げた料理にナッツやドライフルーツのアクセントを添え、スペインワインとともにお楽しみいただけるひと皿をご用意しています。

水を抜いただけの実に、これだけの仕事がある。乾かすことは、失うことではないのです。

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