メニューに「Setas」の一語だけ。何が出てくるのかは、その日の山の機嫌次第です。

セタス(setas)とは、スペイン語できのこ類全般を指す言葉。スペイン料理の文脈では、きのこを主役にした料理そのものを指して使われます。代表格は二つ。にんにくを効かせたオリーブオイルで煮る「アヒージョ」と、炭火・薪火でシンプルに焼き上げる「グリル」。

派手さはありません。むしろ隠す場所がない。だからこそ素材の質と火加減が、そのまま皿に出てしまう一皿です。

鉄鍋でにんにくとオリーブオイルとともに煮込まれるきのこ

セタスとは

セタス(setas)は、スペイン語で「きのこ」を意味する複数形の名詞。単数形は「セタ(seta)」で、広くは食用きのこ全般を指します。

メニューに単に「Setas」とだけ書かれているとき、その中身はポルチーニ(セップ)やジロール、椎茸、マッシュルームなど、その時期に手に入った数種の組み合わせです。料理名ではなく素材名がそのまま皿の名前になっている。それだけきのこが日常に溶けているということでしょう。アロスが「米」であり米料理でもあるのと、同じ言葉の使い方です。

由来・食文化における位置づけ

秋になると、スペイン各地の山野が人で賑わいます。ポルチーニなどの野生きのこ狩り。そしてバルや家庭の食卓に、きのこ料理が並びはじめる。季節の到来を告げる合図のようなものです。

とくにバスク地方カタルーニャ地方には、きのこ狩りの文化が濃く残っています。そこで好まれてきたのは、意外なほど手を入れない調理法でした。旬のきのこを炭火や薪料理でただ焼く。パン・コン・トマテに通じる引き算の美学が、山の恵みにも同じように向けられている。秋のジビエと並んで、この季節の火の使い方を象徴する一皿です。

味わいの特徴

セタスの核心は、土の香りと、噛むほどに広がる肉厚な食感です。

そして加熱の意味がここに絡みます。火が入り水分が抜けると、旨みは凝縮し、香りはむしろ強くなる。減らすことで濃くなる——きのこという素材の面白いところです。

味付けはにんにく、オリーブオイル、、パセリ。それ以上は足しません。だから素材の質が完成度をそのまま決めてしまう。使う油も同じです。良質なスペインのオリーブオイルを選べば、きのこの香りとオイルの風味が噛み合って、奥行きが一段深くなります。

籠に盛られた野生のきのこ

代表的な調理法

最も広く親しまれているのが「アヒージョ」。薄切りのにんにくと唐辛子を弱火でオイルに移し、そこにきのこを加えてじっくり煮る。きのこのアヒージョは、バルの定番タパスとして揺るぎない地位にあります。

もうひとつが「グリル」。大きめに切ったきのこを鉄板や炭火・薪火にのせ、そのまま焼く。仕上げに塩とオリーブオイル、刻んだにんにくとパセリ。手数は数えるほどしかありません。それでも焼くことで水分が飛び、香ばしさと凝縮した旨みが立ち上がる。油の中で煮るか、炎で乾かすか。同じきのこが、まったく違う顔を見せる分かれ道です。

産地とバリエーション

良質な野生きのこの産地として名が挙がるのは、カスティーリャ・イ・レオン州、ナバラ州、バスク地方。秋のシーズンにはメルカドにポルチーニやジロールが積み上がります。素朴で滋味深いカスティーリャの食卓にとって、これは季節の贅沢です。

そして使うきのこが変われば、皿の性格も変わります。香り高いポルチーニ、繊細なジロール、肉厚な椎茸やマッシュルーム。組み合わせ次第で、同じ「Setas」がいくつもの表情を持つ。単品の一皿としてだけでなく、肉料理や魚料理の付け合わせとしても幅広く働きます。

料理・ワインとの相性

香りとうまみが濃い一皿ですから、合わせるのはしっかりした果実味と穏やかな酸を持つ赤ワイン。とくに土や森を思わせるニュアンスのあるテンプラニーリョ、あるいはリベラ・デル・ドゥエロ。土の香りには土の香りで応えるという、単純で確かな組み合わせです。

イベリコ豚の生ハムクロケッタ(スペインのコロッケ)と並べて盛れば、それだけでバルの小皿の楽しみ方になります。当店でも、薪火の炎と熾火を使ってきのこの香りを引き出す調理を大切にしています。

山で採れたものを、火で乾かす。それ以上のことをしないほうが、きのこは強い。

そのほかの料理やテーマについては、コラム一覧からご覧いただけます。