河口の町に、白い壁の蔵があります。扉を開けると、外の熱気とは別種の湿った空気が流れ出す。大西洋からの風が、一日中この町を吹き抜けています。

マンサニージャとは、その海辺の町の蔵で熟成された、淡く軽やかな辛口のシェリーのこと。内陸の蔵で同じように造られたものとは、はっきり味が違います。

ぶどうも造り方も同じ。違うのは、蔵の立つ場所だけです。

海辺の蔵と樽

マンサニージャとは

産地はヘレスを中心とする三角地帯の一角、川が大西洋に注ぐ河口の町です。畑は他の地区と共有しており、使うぶどうも同じ淡白な白ぶどう。

造りの基本もフィノと変わりません。度数を低めに設定し、液面に酵母の膜を張らせて、空気から遮断したまま熟成させる。この膜がある限り、色は淡いままです。

にもかかわらず、出来上がるものは違う。より軽く、より繊細で、後味にかすかな塩気と苦みが残ります。名前は小さなカモミールを指す言葉と同じで、その香りに由来するとも言われますが、由来には諸説あります。

海が変えるもの

差を生んでいるのは、蔵の環境です。

大西洋に面したこの町は、年間を通して湿度が高く、気温の振れ幅が小さい。海からの風が絶えず吹き、蔵の中の空気を湿らせます。

酵母の膜は、乾燥に弱い生き物です。内陸の蔵では、夏の暑さと乾きで膜が薄くなる時期があります。ところが海辺の蔵では、湿度が保たれるため膜が一年を通して厚く生き続ける。

膜が厚いほど、ワインは空気から守られます。だから色がいっそう淡く、酸化に由来する重さが乗らない。同時に、酵母が長く働き続けるぶん、独特の香りが深く刻まれます。

この蔵の環境そのものを味の要素として扱うところが、面白い。土地が味を決めるという話は、畑だけの話ではないわけです。 ちょうど洞窟がチーズを育てるのと、発想は似ています。

フィノとの違い、そして扱い方

並べて飲むと、差がわかります。フィノのほうがわずかに厚みがあり、マンサニージャはより軽く、鋭い。塩の感触も、こちらのほうがはっきり出ます。

熟成はソレラの仕組みに載って進みます。若い酒を足しながら、味を平均へ寄せていく。だから収穫年の表示はなく、ヴィンテージという発想とは別の世界にあります。

扱いで大事なのは二つ。しっかり冷やすこと、そして開けたら早く飲み切ること。膜に守られていた酒が、抜栓と同時に空気にさらされます。冷蔵庫に入れて、数日のうちに。重い酒精強化ワインの感覚で置いておくと、持ち味の鋭さが鈍ります。

グラスは小ぶりで構いませんが、香りを見たいなら少し膨らみのあるものを。グラスの形で印象が変わるのは、この手の酒でも同じです。

もし年月をさらに重ねて膜が消えたものに出会えば、色が濃く、香ばしさの乗った別の顔を見せます。酸化熟成へ進んだタイプとの中間にある姿で、同じ干し葡萄の甘口とは正反対の方向にある変化です。

料理との相性

海の町の酒ですから、海のものと合います。

アセイトゥナスを数粒。ボケロネスの酸。アンダルシアの揚げもの小イカマテ貝アサリ。塩気と塩気が重なって、どちらも軽くなります。立ち飲みのカウンターで一杯やるなら、これほど合うものもない。

イベリコ豚の生ハムとの組み合わせも定番です。脂の甘みを、酒の鋭さが切っていく。乾いた木の実ピコスを横に置けば、それだけで卓が成立します。

炭火のイワシ薪火で焼いた魚にも。焼けた皮の香ばしさと、酒の塩気が同じ方向を向きます。アンダルシアの食文化そのものが、この一杯の背景にある。

温度を落として、タパスを並べる。それがこの酒のいちばん自然な飲み方だと思います。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。