海岸から車で内陸へ向かうと、景色が段になって変わっていきます。低いところは温かく乾き、上がるにつれて風が涼しくなる。同じ産地の中で、これだけ環境が変わる場所はそう多くありません。

ペネデスとは、地中海に面したカタルーニャ地方にある産地の名前です。スペインの泡の中心地として知られていますが、それだけの土地ではない。

この産地の面白さは、標高が三段になっていることにあります。

丘に広がるぶどう畑

三段の標高

産地はおおまかに三つの帯に分かれます。

海に近い低地は温暖で、日照が強い。ここでは糖度が上がりやすく、豊かな果実味を持つぶどうが育ちます。

中間の帯は、丘陵地です。標高が上がって夜が涼しくなり、昼夜の寒暖差が出る。酸を保ちながら熟すという、ワイン造りに都合のいい条件が揃います。生産の主力はこのあたりに集まります。

そして山側の高地。標高が高く、涼しい。熟すのに時間がかかるぶん、酸の高い引き締まったぶどうができます。

一つの産地の中に、三つの気候が積み重なっている。だから造り手は、目的に応じて畑を選び分けられます。泡のベースには酸が要る。だから高いところの畑が効いてくる。 この地理が、泡の産地としての性格を決めました。

なぜ泡の中心になったのか

泡を造るには、いくつかの条件が要ります。

まず、酸のはっきりした素のワインが必要です。二次発酵を経て澱と寝かせるあいだも骨格を保てるだけの酸。これが高地の畑から得られます。

次に、長期間瓶を寝かせておける涼しい場所。この地方には、地下深くに掘られた蔵があります。地上が暑くても、地下は一年を通して温度が安定している。熟成の長さで格付けが分かれる以上、寝かせる場所の確保は死活問題です。

そして規模。畑と造り手の数が多く、量を安定して供給できる体制が整っています。この規模の大きさが、価格を抑えることにもつながっている。シャンパンとの価格差が生まれる背景の一つがここにあります。

製法そのものは同じでも、品種と土地が違えば別の酒になる。ペネデスの泡が穏やかで果実味を感じさせるのは、地中海の日射が入っているからです。日本へ届くまでの流通を考えても、量のある産地は手に取りやすい。

泡だけの産地ではない

この土地の白ぶどうは、泡のベース以外にも使われます。単体で仕込まれた白は、爽やかで飲みやすく、日常の食卓に向く。

赤も造られます。地中海性気候で育つガルナッチャや、スペインを代表するテンプラニーリョ。国際的な品種を植えて、新しい方向を試してきた歴史もあります。ロサードも出来がいい。

同じカタルーニャの中でも、急斜面のプリオラートが凝縮と力で知られるのに対し、ペネデスは幅と安定で応えてきた土地だと言えます。役割が違う。

原産地呼称の枠組みの中で、この地方は早くから近代的な設備を取り入れてきたことでも知られます。伝統と技術の折り合いをつけながら、量と質を両立させてきた産地です。

料理との相性

泡と地元料理の組み合わせは、ほとんど反則的によく合います。

パン・コン・トマテに、冷えた一杯。これだけで卓が成立します。エスカリバーダの焼き野菜、ロメスコソースを添えた一皿、春の焼き葱。カタルーニャの食卓は、泡を前提に組み立てられているようにさえ見えます。

揚げものも得意分野です。クロケッタカラマリタパスを並べる卓全般。炭酸が油を流していきます。

イベリコ豚の生ハム腸詰めスペインのチーズにも。熟成の長い泡なら、薪火で焼いた魚サルスエラのような海の煮込みまで守備範囲に入ります。

出す温度を冷やしすぎないこと。それだけで、この産地の泡は表情を変えます。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。