グラスを傾けると、液体がゆっくり壁を伝います。色はほとんど黒。光にかざしても、向こう側が透けません。一口含むと、干し葡萄と黒蜜とコーヒーが同時に来る。

ペドロ・ヒメネスとは、同じ名前の白ぶどうを天日で干してから仕込む、極端に甘いワインのこと。産地では省略してPXと呼ばれます。

驚くのは、この甘さに砂糖が一切足されていないことです。

天日に干されたぶどう

ペドロ・ヒメネスとは

もとは白ぶどうです。皮が薄く、糖度が上がりやすい性質を持っています。

収穫したあと、すぐには搾りません。葦のむしろや専用の敷き場に広げ、南スペインの強い日差しに数日から数週間さらします。ぶどうは水分を失い、皺が寄り、房が縮んでいく。

このとき、糖分は消えません。減るのは水だけです。だから残った果汁は、極端に糖の濃いものになります。甘さを足したのではなく、水を抜いた結果として甘い。 ここがこのワインの核心です。

干したぶどうは硬く、圧搾にも力が要ります。搾れる量もわずかです。手間と歩留まりの悪さが、そのまま価値に跳ね返る。

なぜ黒くなるのか

白ぶどうなのに、出来上がりは黒に近い。理由は二つあります。

一つは、天日干しの段階です。糖とアミノ酸が熱と時間で反応し、褐色の成分と香ばしい香りが生まれます。パンを焼いたり肉に焼き目をつけたりするときに起きるのと、同じ種類の変化です。

もう一つは熟成です。糖の濃い果汁は発酵が進みにくく、途中でアルコールを加えて止めます。そのうえで樽に入れ、ソレラという段組みの仕組みに載せて年月を重ねる。空気に触れながらゆっくり酸化するうち、色はさらに深く、香りはコーヒーや糖蜜、乾いた無花果の方向へ動いていきます。

若いものは果実の甘さが前に出ます。長く重ねたものは、甘さの奥に苦みと塩気が現れ、単調さが消える。この苦みがあるかどうかで、印象が大きく変わります。

どう飲むか

まず量。これは少量で成立する酒です。 小さなグラスに、指一本ぶんほど。たっぷり注ぐ酒ではありません。

温度は軽く冷やす程度に。冷やしすぎると香りが閉じ、常温だと甘さが重く感じられます。出す温度で表情が変わるという話は、甘口でこそ効いてきます。

グラスは小ぶりで、口のすぼまった形が向きます。香りを集められるからです。グラスの形を変えて試すと、同じ一本でも印象が動くのがわかります。

同じヘレスの町で造られる辛口とは、性格が正反対に見えます。ただ、フィノとオロロソを分ける仕組みを知ると、これらが地続きの技術の上にあることが見えてくる。海辺で育つ繊細なマンサニージャと、この黒い甘口が、同じ地域から出ている。その振れ幅がこの産地の面白さです。

糖分が保存性を担うため、開栓後もかなり保ちます。長く寝かせられる酒かどうかという観点で言えば、これは相当に頑丈な部類です。

料理との相性

役割は基本的に食後です。バルの締めくくりに、小さなグラスで一杯。

フランクレマ・カタラーナトリハス。卵と砂糖の菓子とは、甘さの質が近くて自然に収まります。レチェ・フリータポルボロントゥロンのような乾いた菓子にも合う。

意外に効くのが、塩気の強いものです。青カビのチーズにほんの少し垂らすと、甘さと塩気が互いを持ち上げます。熟成チーズ全般との相性も、この理屈で説明がつく。

そしてバニラアイスに直接かける飲み方。デザートソースとして扱ってしまうわけです。行儀の話は別として、これがよく合うのは確かです。

食後に居座る時間を、この一杯が長くしてくれます。薪火の料理で始まった食事を締めるのに、これほど分かりやすい終わり方もない。当店でも小さなグラスでお出ししています。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。