酒蔵の天井が高い。床は土がむき出しで、打ち水がしてあります。その上に、樽が三段、四段と積み上がっている。一見すると、ただの倉庫です。
けれどこの積み方には意味があります。ソレラとは、年代の違う樽を段に分けて並べ、一番下の段から出荷したぶんを、すぐ上の段から順に補充していく熟成の仕組みのこと。若い酒が古い酒に少しずつ溶けていく。
同じ味を、何十年にわたって出し続けるための発明です。

ソレラとは
言葉の由来は床、つまり一番下という意味だとされます。床に置かれた最下段の樽が、出荷される酒の入る場所です。
仕組みはこうです。最下段の樽から、中身の一部を抜いて瓶詰めする。空いたぶんを、一段上の樽から移す。その段が減ったぶんは、さらに上の段から。最上段には、その年に仕込まれた新しい酒が入ります。
一度に抜くのは、樽の容量のごく一部です。だから最下段の樽の中身は、完全に入れ替わることがありません。何年も前の酒がわずかに残り続け、そこへ毎年新しい酒が足されていく。理屈のうえでは、最初の一滴が今も混じっていることになります。
なぜ混ぜるのか
理由は二つあります。
一つは、味を安定させるため。ぶどうは自然の産物ですから、年ごとに出来が違います。ヴィンテージという考え方は、その差そのものを楽しむものですが、ソレラは逆を狙う。良い年も難しい年も混ぜ合わせて、平均へ寄せていく。だから、この方式で育った酒は収穫年を表示しません。
もう一つは、熟成を促すため。古い酒には、長い時間で育った成分が溶けています。そこへ若い酒を入れると、古い側の成分が若い側に働きかけ、熟成の進み方が速くなる。生きた酵母が関わるタイプでは、新しい栄養が入ることで酵母の膜が保たれる、という効果もあります。
樽そのものにも役割があります。何十年も使い込まれた樽は、新しい木の香りを与えません。ただ、ごく微量の空気を通す。この呼吸が、ゆっくりとした酸化を進めます。
ソレラから生まれる酒
この仕組みが最もよく知られているのは、ヘレスの町で造られる酒精強化ワインの世界です。
酵母の膜の下で育つタイプは、淡い色と塩気を帯びた辛口になります。フィノとオロロソが分かれる仕組みを知ると、同じソレラでも道が二つあることが見えてくる。海辺の町で熟成させると、さらに繊細な性格が現れます。それがマンサニージャです。
一方、空気に触れて酸化していくタイプは、色を琥珀へ、香りをナッツやドライフルーツへと変えていきます。極端に甘いペドロ・ヒメネスも、この仕組みで年月を重ねる。黒蜜のような濃さは、時間の産物です。
ワインだけではありません。ベルモットやブランデー、酢の分野でもこの考え方が使われます。シェリー酢が料理を引き締める深みを持つのは、同じように時間を重ねているからです。
料理との相性
ソレラで育った酒は、単純な果実味ではなく、香ばしさとうまみで勝負します。だから、合わせる料理も香ばしさを持つものが噛み合う。
辛口の淡いタイプなら、立ち飲みのカウンターでアセイトゥナスやボケロネス、乾いた木の実と。塩気同士が響き合います。アンダルシアの揚げものや炭火のイワシも、同じ土地の組み合わせとして落ち着きます。
酸化して色の濃くなったタイプは、守備範囲が広い。きのこ、内臓の煮込み、イベリコ豚の生ハム、熟成チーズ。薪火で焼いた料理とも、香りの方向が揃います。
極甘口は、フランやトゥロンに少しだけ。あるいは食後に居座る時間そのものを甘くする一杯として。
樽を積み上げるという単純な発想が、何十年分の時間を一杯に凝縮する。当店でもこの手の酒をお出ししています。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。