夏の畑は、正午には人がいません。石ころだらけの乾いた地面に、丈の低いぶどうの樹が点々と立っている。灌漑もなく、雨も少ない。それでも、房は黒く熟していきます。

モナストレルとは、スペイン南東部の地中海沿いを中心に育つ黒ぶどう品種のこと。フランスではムールヴェードルと呼ばれ、南仏でも重要な役割を担っています。

色が濃い。渋みが強い。アルコールが上がる。この三つが、そのまま産地の気候の写し絵になっています。

熟した黒ぶどう

モナストレルとは

まず、育つ場所の話をします。ムルシアを中心とした南東部は、スペインでも特に乾燥した地域です。年間の降水量は少なく、夏の日照は強烈。土壌は石灰質で痩せている。

多くの品種にとっては過酷な条件ですが、モナストレルはここで力を発揮します。乾燥に強く、暑さに耐える。そして芽吹きが早く、熟すのが遅い。長い期間、太陽を浴び続けることになります。

その結果、果皮に色素とポリフェノールがたっぷり蓄積される。糖度も上がる。搾ればインクのように濃い果汁が出て、発酵させれば度数の高い、渋みのしっかりした赤ができあがります。

土地が味を決める。この品種ほど、それがわかりやすく出るものも多くありません。

遅く摘むという判断

モナストレルの難しさは、熟すのが遅い点にあります。

十分に熟していないと、渋みが硬く、青い印象が残る。だから摘む時期を遅らせる。ところが遅らせれば糖度が上がり、アルコールが高くなる。酸は落ちる。どこで切るかは、その年の気候との交渉です。

ヴィンテージによる差が出やすいのは、この駆け引きがあるからです。暑すぎた年はワインが重くなりすぎ、涼しい年は青さが残る。

近年は、標高の高い区画に植えることで日中の暑さと夜の冷え込みの差をつけ、酸を保つ試みも増えています。同じ品種でも、畑の高さが百メートル違えば別の顔になる。

味わいと、造り方の幅

若いうちは、黒い果実の香りが前に出ます。ブラックベリー、プラム。そこにハーブや土、革を思わせるニュアンスが重なる。渋みは粗いというより、みっしりと詰まった感じ。

樽で熟成させると、渋みが丸くなり、香ばしさが加わります。クリアンサやレセルバといった熟成区分に沿った造りも行われ、時間が角を落としていく。

意外に知られていないのが、ロサードとしての実力です。色素が豊富なので、短く皮を漬けるだけで美しい色が出る。果実味がしっかりしたロゼになり、食卓での使い勝手がいい。

ガルナッチャテンプラニーリョとブレンドされることもあります。モナストレルが骨格と色を、他の品種が香りや柔らかさを足す形です。

料理との相性

濃いワインには、濃い料理を。ペアリングの基本にある「重さを揃える」がそのまま効きます。

熟成肉の炭火焼きチュレトンイベリコ豚のプレサセクレト。脂と旨みのある赤身に、モナストレルの渋みが噛み合います。渋みは肉のたんぱく質と結びついて和らぐので、口の中で両方が丸くなる。

煮込み料理にも強い。時間をかけたカジョスアルボンディガスウサギ肉の料理。香辛料の効いたチョリソーモルシージャといった腸詰めとも合います。

燻した香りをまとった薪火の料理は、この品種の得意分野です。薪の樹種が変える香りの方向を意識すると、合わせ方の精度が上がる。秋のジビエのような、癖のある素材も受け止めます。

ロサードのほうは、ぐっと守備範囲が広い。パエリアタパスを何品か並べる場面で、迷わず選べる一本になります。温度は、赤なら少し低めのほうが重さが抜ける。ほかの品種の話はコラム一覧からどうぞ。