皿ではなく、木の板で運ばれてきます。骨がついたまま、厚みは4センチ以上。ひとりで食べきる料理ではありません。

チュレトン(Chuletón)とは、骨付きのリブロースを厚く切り出し、炭火や薪火で焼き上げるスペインのステーキ。バスク地方のアサドール(焼き場を構えた店)を象徴する一皿です。

大きいことに意味がある。その理由は、骨と熟成にあります。

骨付きのまま切り出された牛肉

チュレトンとは

チュレタ(chuleta)が「骨付き肉」、語尾の -ón が「大きい」を意味します。つまり名前がそのまま「大きな骨付き肉」。

使うのは、多くの場合、長く肥育された経産牛や高齢の乳牛です。日本では若い牛が好まれますが、スペイン——とくにバスクでは逆。年齢を重ねた牛のほうが、脂が黄色みを帯び、肉の香りが濃いとされます。

一枚1キロ前後。数人で分けるのが前提の料理で、大皿を囲むラシオンの文化とも地続きです。

骨がついている理由

骨は、単なる飾りではありません。

火にかけたとき、骨のまわりの肉はもっとも熱が入りにくい。つまり骨が断熱材として働き、その周辺だけ火の通りが遅くなります。結果として、一枚のなかに焼き加減のグラデーションが生まれる。よく焼けた縁と、しっとりした骨際。両方を一度に味わえるのが、骨付きの利点です。

加えて、骨からは焼いているあいだに香りが出ます。熾火の温度管理が効いてくるのはここで、強すぎる火では表面だけが炭になり、骨際まで熱が届きません。

熟成させた骨付きの牛肉

焼き方と切り分け

塩は、焼く直前に粗いものを表面へ。塩の粒度がそのまま食感に残るので、細かい塩は使いません。

焼くのは強い熾火の上。片面ずつしっかり焼き色をつけ、立てて脂の側面も焼く。中心温度が上がりすぎる前に引き上げ、数分休ませる。この待ち時間で、肉汁が全体へ戻ります。

切り分けるときは、骨から身を外して繊維に垂直に。部位によって繊維の向きが違うので、一枚のなかでも切る方向を変えることがあります。

熟成をかけた肉なら、ナッツのような香りが立ちのぼる。薪火の煙がそこへ重なって、アサドールの一皿が完成します。

ワインとの相性

肉が大きく、味が濃い。ワインも力のあるものが要ります。

定番は熟成させた赤。レセルバ以上のものなら、樽の香りと肉の熟成香が同じ方向でまとまります。より濃厚さを求めるならリベラ・デル・ドゥエロ、土地の個性で選ぶならプリオラートも面白い。

バスクでは、赤ではなく微発泡のチャコリを合わせる店もあります。脂を酸で切る、という発想です。どちらが正しいということはありません。

一枚を囲んで、皆で切り分ける。食後も長く居座るスペインの習慣には、これくらい大きな皿がちょうどいいのかもしれません。ほかの肉の話はコラム一覧からどうぞ。