薪小屋に立つと、料理人はまず匂いを確かめます。次に手に取って、重さを見る。燃料を選んでいるようには見えません。むしろ、市場で魚を選ぶときの顔つきに近い。

それも当然です。木は燃えることで遠赤外線と煙を生み、その成分が食材に香りを移します。つまり薪を選ぶ行為は、味を選ぶ行為とほぼ同じ。同じ魚、同じ肉でも、樫(かし)で焼くのかりんごの木で焼くのかで、皿の上には別の料理が現れます。

そしてもうひとつ。この「木を介して香りが生まれる」という仕組みは、ワインの世界でもまったく同じように働いています。薪料理とオーク樽——遠く離れて見えるこの二つが、実は同じ理屈で動いている話をしていきます。

薪小屋に積まれた樫やオークの薪

薪の樹種とは何か

まず、大きな分かれ道が一本あります。「広葉樹(ハードウッド)」か、「針葉樹(ソフトウッド)」か。

広葉樹は樫やナラ、ブナなど、密度の高い木です。ゆっくり燃えて、安定した熾火をつくる。厨房の火床を任せられるのはこちらです。対して松や杉といった針葉樹は、調理には使いません。ヤニ分が多く、煙が強く立ちすぎる。焚き火としては悪くないのですが、料理に使うと香りが食材を押しのけてしまいます。

広葉樹のなかにも、もう一段の分かれ道があります。樫やオーク(ヨーロッパナラ)のように香りが穏やかで火持ちのよいもの。りんごやさくらのように、甘くフルーティな香りを放つ果樹・堅果樹。料理人はこの二系統を持ち分けて、食材にふさわしい香りを組み立てます。魚を焼くのか、熟成肉を焼くのかで、選ぶ木が変わるということです。

樹種による違い ― 由来と背景

樫やオークの仲間は、ヨーロッパでもスペインでも、昔から薪炭材として重宝されてきました。理由は単純で、長く燃えるからです。大きな肉塊や魚を、あわてずじっくり焼くにはこの持続力が要る。スペインのアサドールの火床も、たいていこうした広葉樹が主力を張っています。薪窯とアサドールのように熱の伝え方が違う道具でも、頼る木は同じ系統です。

一方、りんごやさくらの木が受け持ってきたのは、燻製とグリル。糖分を含む果樹の木は、燃えるときに甘く優しい香りを立てます。だから魚介や鶏肉と折り合いがいい。薪火焼きの香りが食材ごとに違う表情を見せるのは、この使い分けの結果です。

そして忘れてはいけないのが、手に入る木は土地によって違うということ。地域や店によって薪棚の中身は変わり、その差がそのまま料理の個性になっていきます。

香りと火力の特徴

樹種の違いは、二つの軸で見るとすっきり整理できます。香りの強さと、火持ちの長さ。

香りの強さ ― 樫やナラは、香りが穏やかです。食材本来の風味を押しのけない。だから素材で勝負する料理に向きます。対して果樹系は香りが前に出るので、燻製のようにはっきり風味をつけたいときの武器になります。

火持ちの長さ ― 密度の高い広葉樹ほど、長く燃えて熾火が安定します。時間のかかる肉料理では、ここが決定的です。火が途中で息切れすると、火入れの計算がすべて崩れる。

煙の質 ― そしてこれが見落とされがちなところ。よく乾いた薪ほど煙が少なく、香りがクリアになります。逆に水分の多い生木は煙たく、雑味を呼び込む。つまり薪料理では、どの木を選ぶかと同じくらい、どれだけ枯らしたかが効いてくるのです。

樹種の異なる薪を焚べた炎

ワインの樽香との共通点

ここで、話がグラスに移ります。

ワインの多くは、オーク樽で熟成する過程でバニラやナッツ、燻したような香ばしさをまといます。木から香りをもらって、味わいに複雑さを足す。——これ、薪料理がやっていることと構造が同じです。片方は数分、もう片方は数年。かかる時間だけが違う。

長期間オーク樽で寝かせたクリアンサ・レセルバのワインは、薪火でじっくり火を入れた料理と同じように、木の香りを借りて深みを増していきます。しかも樽の木材の産地や樹種で香りの個性が変わるところまで、薪選びと重なっています。ワインが温度で表情を変えるのと同じように、木もまた条件次第で違う顔を見せる。

料理・ワインとの相性

薪の香りをまとった料理には、その香ばしさに押し負けない骨格が必要です。

樫の薪でじっくり焼き上げた肉なら、力強いタンニンと樽香を持つテンプラニーリョ、あるいはリベラ・デル・ドゥエロあたり。木の香りと樽の香りが正面からぶつからず、同じ方向を向きます。果樹系の薪で軽やかに焼いた魚介には、酸の立ったロサードや、樽をあまり使わないすっきりした白。ここで重い樽香を持ってくると、せっかくの繊細な煙が消えてしまいます。グラスの形ひとつで香りの立ち方が変わるくらいですから、この配慮は無駄になりません。

Opus 6でも、薪の樹種を料理に合わせて選び分け、その香りに調和するワインを組みます。

木の香りは、皿の中だけの話ではない。グラスの中でも、同じ物語が続いています。

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