肉屋がその部位を切り出すとき、指で探るようにして脇腹に刃を入れます。表面からは見えない。だから「秘密」という名前がついた——そう言われている部位です。

セクレト(Secreto)とは、イベリコ豚の肩甲骨の外側、脇腹の皮下に薄く広がる肉のこと。スペイン語で「秘密」を意味します。枝肉の状態では脂に隠れていて、解体に慣れた人でないと見つけられない。そんな来歴が、そのまま名前になりました。

薄い。それなのに、霜降りが驚くほど細かい。この矛盾した性質が、焼き方のすべてを決めます。

霜降りが細かく入った豚肉の断面

セクレトとは

厚みは、せいぜい2センチほど。手のひらを広げたような、平たい一枚です。

特徴は脂の入り方にあります。赤身のあいだに、網の目のように白い脂が走っている。牛の霜降りに近い見た目ですが、豚の脂は牛より融点が低い。つまり、火にかけるとすぐに溶け出します。

同じイベリコ豚の希少部位でも、プレサは肩の内側にある厚みのある塊。あちらが「かたまりで火を入れる肉」なら、セクレトは「一気に焼き切る肉」です。同じ豚から取れても、扱いはまるで違います。

名前の由来と、見つけにくさ

なぜ隠れているのか。位置の問題です。

肩甲骨の外側、皮と筋肉のあいだ。厚い脂の層に覆われているため、外から見ただけでは存在がわかりません。解体の手順を知らなければ、脂ごと削ぎ落としてしまう。かつては肉屋が自分用に取り置いた、という話もあるほどです。

一頭から取れるのは、左右あわせて数百グラム。イベリコ豚の生ハムのように長期熟成にまわす部位ではなく、新鮮なうちに焼いて食べる。希少さの理由は、量の少なさと、取り出す手間の両方にあります。

薪火での焼き方

脂が細かく入った薄い肉。これを美味しく焼く条件は、ひとつしかありません。強い火で、短く。

熾火の上に網を近づけ、片面を一気に焼き締める。溶け出した脂が炭に落ち、立ちのぼる煙が肉に戻ってくる。この往復が、セクレト特有の香ばしさをつくります。

長く火にかけると、脂が抜けきってパサつく。焼き加減の見極めがこれほどシビアな部位も珍しく、中心にほんのり赤みが残るところで引き上げるのが目安です。焼いたあとは数分休ませてから切り分けます。

味付けは粗塩だけ。脂そのものに甘みがあるので、余計なものを足す必要がありません。素材で勝負するという点では、素材で語るガリシアの流儀にも通じる考え方です。

ワインとの相性

脂は軽やかですが、量は多い。それを流す酸が要ります。

合わせやすいのは、リオハのクリアンサあたり。樽由来のバニラ香が、薪火の香ばしさと同じ方向を向きます。もう少し力のあるものなら、テンプラニーリョを主体にした赤も好相性です。

赤身の旨みと脂の甘み、そこに薪の香り。三つが重なる一皿ですから、ワインも複雑さのあるものが応えてくれます。温度は少し低めに整えると、後味が軽くまとまります。

隠された部位、という名前のわりに、味は率直です。当店でも薪火で焼き上げてお出ししています。ほかの部位の話は、熟成肉の部位ごとの違いコラム一覧からどうぞ。