市場の棚に並ぶ生ハムの脚に、小さな焼き印が押されています。チーズの側面には、産地の名を記したラベル。装飾ではありません。名乗ってよい、と認められた証です。
原産地呼称(Denominación de Origen、略してDO)とは、その食品がどこで、どのように作られたかを保証するスペインの認証制度。ワインのDOがよく知られていますが、対象はワインだけではありません。生ハム、チーズ、オリーブオイル、米、パプリカ、蜂蜜——食卓に上がるほとんどの品目に、それぞれの呼称があります。
産地の名は、誰でも名乗れるわけではない。その仕組みを見ていきます。

原産地呼称とは
制度の考え方は単純です。特定の土地で、定められた方法で作られたものだけが、その土地の名を名乗れる。
たとえば「マンチェゴ」と名乗るには、ラ・マンチャ地方の指定地域で、マンチェガ種の羊の乳を使い、決められた期間熟成させなければなりません。同じ製法で別の場所で作っても、それはマンチェゴではない。産地・原料・製法の三つが揃って、はじめて名前が許されます。
守っているのは、消費者だけではありません。長い時間をかけて品質を築いてきた生産地そのものを、名前の乱用から守る仕組みでもあります。
どんな食品が認証されているのか
品目は驚くほど幅広い。
肉なら、放牧地デエサのどんぐりで育ったイベリコ豚の生ハム。チーズなら、洞窟で熟成させるカブラレス、燻製のイディアサバル、とろけるトルタ・デル・カサール、島のマオン。
野菜や穀物にも呼称があります。パエリアに使うボンバ米、ピミエントス・デ・パドロン、カルソッツ。調味料ではピメントンやサフラン、シェリー酢、蜂蜜。
腸詰めにも産地ごとの呼称があり、同じチョリソーでも産地が違えば別の基準で作られています。
DOとIGP、その違い
紛らわしい表示が二つあります。DO(原産地呼称)と、IGP(地理的表示保護)。
DOは、生産から加工までのすべての工程が、指定地域の中で完結していなければなりません。原料もその土地のもの。より厳しい基準です。
IGPは、いずれかの工程が指定地域で行われていればよい。たとえば原料が他所から来ていても、その土地の伝統的な製法で加工されていれば認められます。緩やかなぶん、対象は広くなります。
どちらが上等ということではなく、保証している範囲が違う。ラベルを読むときは、そこを見分けると産地との結びつきの強さがわかります。
選ぶときに、何を見るか
呼称があるから美味しい、と単純には言えません。制度が保証しているのは「産地と製法が守られていること」であって、味の良し悪しそのものではないからです。
それでも手がかりにはなります。とくに市場で見慣れない食材を前にしたとき、呼称の有無は「この土地で伝統的に作られてきたもの」という目印になる。季節ごとに顔ぶれの変わる食材を選ぶときにも、産地を確かめる習慣は役に立ちます。
熟成や塩蔵といった保存の技術は、もともと土地の気候と結びついて発達したものです。乾いた高原のカスティーリャと、湿ったガリシアでは、同じ豚を扱っても仕上がりが違う。産地を保証するという発想の根には、そういう当たり前の事実があります。