木の間隔が、妙に均一です。自然の森なら、密なところと開けたところが混ざるはず。ここは違う。一本ずつ距離を置いて、樫の木が立っている。その下は一面の草。
自然にできた景色ではありません。人が千年かけて作ったものです。
デエサ(Dehesa)とは、スペイン西部を中心に広がる疎林草原のこと。樫の木を間引きながら残し、その下で家畜を放牧する土地利用の形式であり、景観そのものの名前でもあります。
そして、この土地がイベリコ豚を育てています。

デエサとは
主にエストレマドゥーラ、アンダルシア西部、カスティーリャ・イ・レオン南西部に分布します。ポルトガル側にも同じ景観があり、あちらでは別の名で呼ばれます。
構成要素は三つ。樫の木、下草、そして家畜です。
樫はコルク樫と西洋ヒイラギ樫が中心。日陰をつくり、秋になると実(ベジョータ、どんぐり)を落とします。下草は牧草地として利用され、家畜が食べる。家畜は草を刈る役目を果たし、糞で土を肥やす。
人の仕事は、木を間引くこと、枝を落とすこと、放牧の頭数を管理すること。放っておけば藪になり、木が密になりすぎて実の量が減る。手入れがあってはじめて成立する景観です。
なぜこの形が生まれたか
土地の条件が答えです。
この一帯は夏が暑く乾き、降水量も多くありません。土壌も痩せている。集約的な農業には向かない条件です。同じ内陸でも、カスティーリャの穀倉地帯とはまた事情が違う。
そこで人が選んだのが、広い面積を薄く使う方法でした。単位面積あたりの生産量は低い。しかし、木も草も家畜も同時に取れる。
樫からはコルクと薪、そしてどんぐり。草からは牧畜。豚だけでなく、羊も牛も放たれ、羊乳はチーズに、仔羊は食卓に上がります。秋にはきのこやジビエも採れる。
多層的に使い切る仕組みです。同じ「厳しい土地で工夫する」という点では、乾いたアラゴンの保存文化とも通じる発想でしょう。
モンタネーラ ― どんぐりの季節
秋から冬にかけての数か月を、モンタネーラと呼びます。どんぐりが落ち、豚がそれを食べて肥る期間です。
この期間、豚は広い放牧地を歩き回ります。一頭あたりに必要な面積は大きく、だから飼える数は限られる。希少さの根拠は、ここにあります。
どんぐりには脂質が多く含まれ、その脂肪酸組成が豚の脂に反映されるといわれています。融点が低く、常温でゆるむ脂。生ハムの一枚が舌の上で溶けていく理由の一端です。
歩き回るという点も重要です。運動した筋肉には細かく脂が入りやすい。プレサやセクレトといった希少部位が霜降り状になるのは、この生活の結果とされています。
肉として、食卓へ
デエサで育った豚は、二つの道を辿ります。
ひとつは加工。塩と乾燥による保存を経て、生ハムや腸詰になる。チョリソーやサルチチョン、そしてモルシージャまで、一頭を余さず使います。原産地呼称によって、産地と飼育方法が区分されています。
もうひとつは、生鮮のまま焼くこと。希少部位を熾火で一気に焼き、粗塩だけで仕上げる。脂に甘みがあるので、味を足す必要がありません。焼き加減の見極めだけが仕事になります。
合わせるなら、テンプラニーリョ主体の赤や、樽で寝かせたクリアンサ。脂を流す酸と、薪の香りに応える複雑さが要ります。温度を少し下げると、後味が軽くまとまります。
木と草と家畜。人が手を入れ続けることで保たれてきた景色が、そのまま味になっている。ほかの話は、コラム一覧からどうぞ。