紫の花が咲く。中を覗くと、赤い糸が三本だけ入っている。それを一本ずつ、指で摘む。機械は使えません。

サフラン(Azafrán)とは、アヤメ科の植物「サフランクロッカス」の花から採れるめしべを乾燥させてつくるスパイスのこと。一輪から三本、しかも手摘み。この条件だけで、価格の理由は説明がついてしまいます。重量あたりでは他のどんなスパイスよりも高く、「スパイスの女王」と呼ばれる所以です。

以下では、その一本の糸が何をしているのかを見ていきます。本場のパエリアの黄金色は、ここから来ています。

収穫されたサフランの赤いめしべ

サフランとは(定義)

紫の花を咲かせるサフランクロッカスから、赤いめしべだけを丁寧に摘み、乾燥させる。それがサフランです。

数字を並べると重さが分かります。1グラムを得るのに、花が150輪ほど。そして収穫から乾燥まで、すべて手作業。乾いた糸状のめしべを「スレッド」と呼び、そのまま料理に入れるほか、粉末に加工されたものも流通しています。

使い方には手順があります。少量のぬるま湯かだしに浸し、香りと色を引き出してから加える。ごく少量で料理全体を染めきる力があるので、香辛料のなかでも扱いは慎重に。と同じで、足しすぎたら戻せません。

歴史・由来

栽培の起源は古い。地中海東部からペルシャにかけての地域で、数千年前から染料、香料、そして薬として用いられてきたと考えられています。古代エジプト、ギリシャ、ローマでも珍重され、王侯貴族の贅沢品でした。

イベリア半島に栽培技術が入ったのは8世紀以降。この地を支配したイスラム勢力の手によるものとされます。アンダルシアの食文化アルボンディガスと同じ経路です。以後スペインは世界有数のサフラン産地となり、この黄金色は食文化の奥深くまで染み込んでいきました。

香りと発色の特徴

魅力は二枚看板です。

香りは、わずかに土や干し草を思わせる甘く芳醇なもの。他のスパイスにない奥行きを料理に置いていきます。

そして発色。サフランに含まれる色素成分(クロシン)は水溶性で、ごく微量でも米や汁に鮮やかな黄金色を移します。パエリアのあの華やかさは、ほとんどこの成分の仕事です。

だからこそ、代用品も生まれました。着色料、あるいはスペインのオリーブオイルに色を移した油。色は似せられます。ただし香りは似せられない。そこに深みの差が出ます。

サフランで黄金色に染まった米料理

パエリアでの使い方

パエリアにおいて、サフランは仕上がりを左右する要の食材です。

手順はこう。まず軽く炒って砕き、温めただしかワインに浸す。 この「サフラン水」を米に加えることで、米粒の一つひとつに香りと黄金色が均一に行き渡ります。いきなり鍋へ放り込んでも、こうはなりません。

火加減や煮込み時間も効きますが、薪料理のように炎で仕上げる場合はもう一層加わります。燻香とサフランの芳香が重なるのです。魚介やチョリソーの旨みを吸った米に、その香りが溶け込む——パエジェーラの中で起きているのは、そういう出来事です。

産地とバリエーション

世界的にはイランが最大の産地で、生産量の大半を占めるとされます。

スペインでは、中部ラ・マンチャ地方の「アサフラン・デ・ラ・マンチャ」が原産地呼称(D.O.)で保護されています。高品質なサフランの産地として名高い存在です。同じラ・マンチャのマンチェゴチーズと同じく、産地と等級が香りと価格を分けていきます。

用途はパエリアに限りません。フランス・マルセイユの魚介煮込み「ブイヤベース」、イタリアのサフランリゾット。地中海沿岸を中心に、この黄金色は世界各地へ広がっています。

料理・ワインとの相性

華やかな香りと黄金色は、魚介の旨みと素直に手を結びます。パエリアはもちろん、白身魚のスープやタコのガリシア風(プルポ)のような一皿とも好相性。

ワインなら、この芳香に負けない厚みを持つ白。あるいは軽やかなロサード(スペインのロゼ)。当店Opus 6でも、薪火で炊き上げるパエリアにサフランの香りを効かせ、その日仕入れた食材の魅力を引き立てています。

一輪から三本。それだけの糸が、鍋ひとつを支配します。

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