港に船が着くたび、島には何かが持ち込まれてきました。フェニキア人、ローマ人、アラブ人、そしてカタルーニャ人。地中海の真ん中にある島は、通り道であり、同時に留め置き場でもあります。

バレアレス諸島(Baleares)とは、スペイン東部の地中海に浮かぶ群島のこと。マヨルカ島、メノルカ島、イビサ島、フォルメンテーラ島などからなり、公用語のひとつはカタルーニャ語。文化的にも、対岸のカタルーニャバレンシアと強く結びついています。

けれど島の食は、本土の縮小版ではありません。

地中海の魚介を使った一皿

バレアレス諸島とは

典型的な地中海性気候です。夏は乾いて暑く、冬は温暖で雨が降る。降水量は多くありませんが、島には石灰岩の地層があり、湧き水や地下水が農業を支えてきました。

島ごとに性格が違います。マヨルカは最も大きく、山脈と平野を併せ持つ。メノルカは平坦で風が強く、牧畜が盛ん。イビサは乾いていて、塩田の歴史があります。

海に囲まれているので、魚介は当然豊富です。しかし面積が限られているぶん、内陸産の食材は貴重でした。だから、あるものを長く使う——保存の技術が発達します。

マヨネーズの語源と、島の外来性

メノルカ島の港町マオン(Mahon)が、マヨネーズの語源とされる説があります。フランス軍がこの島を占拠した18世紀に、現地のソースを持ち帰った——そういう伝承です。確たる証拠があるわけではなく、諸説あるとされていますが、島と外来者の関係を象徴する話ではあります。

構造としては、油と卵黄を乳化させたソース。卵なしでも乳化するアリオリとは近縁の技術で、地中海の各地に似た発想が点在します。すり潰し、混ぜ、油を含ませる。ロメスコにも通じるソースの作り方です。

島の食は、こうして外から来たものを取り込みながら形を変えてきました。南米から渡った作物も、港を通じて早くから届いています。

ソブラサーダと、保存の知恵

マヨルカを代表する食べ物が、ソブラサーダと呼ばれる腸詰です。豚肉を細かく挽き、パプリカと塩を混ぜて詰め、熟成させる。特徴は、加熱せずにペースト状のまま食べられること。パンに塗って供されます。

腸詰全般の中でも独特の位置にあり、チョリソーのように切って食べるものとは食感が違う。島の湿った空気の中でどう熟成させるか——塩と乾燥の技術が、本土とは別の解を出した結果です。

メノルカ島の牛乳チーズ「マオン」も、島の名産。羊乳が主流のスペインで牛乳のチーズが育ったのは、平坦な牧草地という地形あってのことです。

魚介は酢に漬ける保存法が日常的で、イワシや小魚がよくこの形になります。炭火や熾火で焼いてから漬ける手順は、地中海に共通した流儀です。

島の食卓と、ワイン

野菜は焼いて甘みを出すのが基本。トマト、ナス、ピーマン。パンにトマトをすり込む食べ方も、対岸から渡って島に定着しました。

米料理もあり、汁気の多いアロスパエリアに近いものが海の幸とともに供されます。夏の暑さのなかでは、火を使わない冷たい一皿も欠かせません。

ワインでは、マヨルカ島のビニサレムとプラ・イ・ジェバンに原産地呼称が認められています。マント・ネグロやカジェットといった島固有の品種があり、ガルナッチャなどと混醸されることもある。

魚介や野菜の皿には、冷やした白かロサード。ソブラサーダのように脂と塩気の強いものには、酸のある赤を少し低めの温度で。島の中で完結する組み合わせが、いちばん収まります。

外から来た味を、島の味に変えてきた。バレアレスの食は、その繰り返しの記録です。ほかの地方の話は、コラム一覧からどうぞ。