秋のぶどう畑は、赤く色づいた葉で埋まります。収穫が終わると、剪定した枝が畑の脇に積まれる。その枝を燃やして、その火で羊のあばら肉を焼く。ワインの里ならではの、素直な循環です。
ラ・リオハ(La Rioja)とは、スペイン北部、エブロ川の上流域に広がる小さな自治州のこと。スペイン最大級のワイン産地として世界に知られています。
けれどこの土地には、ワインだけでなく、独自の料理があります。というより、ワインがあるからこそ育った料理がある。

ラ・リオハとは
北にカンタブリア山脈、南にイベリコ山系。その間をエブロ川が流れる、細長い谷です。
この地形が、絶妙な気候をつくります。北の山が大西洋の湿気を遮り、南の山が地中海性の乾いた空気を和らげる。極端に振れない、穏やかな条件。ぶどうにとっても、野菜にとっても好都合でした。
しかも州内で気候が段階的に変わります。西側は大西洋の影響が強く冷涼、東側は乾いて暖かい。原産地呼称のリオハがアルタ、アラベサ、オリエンタルと区分されるのは、この違いを反映したものです。
川沿いの平地では野菜も豊かに育ちます。隣のナバーラと同じく、エブロ川の恩恵を受けた農地です。
ぶどう畑のそばで生まれた鍋
この地方を代表する料理といえば、じゃがいもとチョリソーの煮込み「パタタス・ア・ラ・リオハーナ」でしょう。
じゃがいもを手で割って鍋に入れる。切るのではなく、割る。断面のでこぼこからでんぷんが溶け出し、煮汁にとろみがつくためです。そこへチョリソーとパプリカを加え、水を張って煮込む。それだけ。
畑仕事の合間に作られてきた料理です。材料はどれも保存が利き、火にかけておけば手が離れる。出汁を大切にするスペインの煮込みの系譜にありながら、素材の数は驚くほど少ない。
冬になれば、豆と肉を長く煮る鍋が主役になります。アストゥリアスのファバダやコシードと同じく、冬の火の料理がこの土地の芯です。

薪と、羊と、野菜
ワイン産地の副産物が、剪定したぶどうの枝(サルミエント)です。これを燃やして仔羊のあばら肉を焼く「チュレティージャス」は、この地方の名物。
枝は細く、火力が強く、短時間で燃え尽きます。だから小さな肉を一気に焼くのに向いている。薪の樹種で香りが変わるという原則がここでも効いていて、ぶどうの枝は独特の香ばしさを残します。熾火と直火の使い分けを、生産者が経験で身につけてきた土地です。
仔羊そのものも良質で、焼き加減を見て塩だけで仕上げる。粗塩の一振りで完成する料理は、素材の質に自信がある証拠でもあります。
野菜も豊富で、アーティチョーク、白いんげん、ピーマン。焼き野菜や、春の芽吹きを活かした一皿も並びます。酢漬けにして保存する習慣も、農村では今も残っています。
ワインとの相性
この地方の料理は、そもそもワインに合うよう育ってきました。だから難しく考える必要がありません。
テンプラニーリョ主体の赤が主役。若い赤は果実味が前に出て、パプリカの効いた煮込みと相性がいい。樽で寝かせたクリアンサやレセルバになると、香りに複雑さが加わり、薪火で焼いた羊とよく響きます。
ガルナッチャを混ぜた古典的なブレンドや、辛口のロサード、白のビウラも造られており、食卓の選択肢は広い。グラスの形を変えて熟成の香りを開かせる、そんな楽しみ方も似合う土地です。
畑と台所が地続きになっている。ラ・リオハの料理の素直さは、そこから来ています。ほかの地方の話は、コラム一覧からどうぞ。