皿の上に、エビと鶏肉が並んでいる。あるいは、イカと豚肉が同じソースの中にいる。初めて見た人は、たいてい一度戸惑います。海のものと山のものを、なぜ混ぜるのか。
カタルーニャ地方の食文化とは、スペイン北東部・バルセロナを中心とする地域に根づく食のあり方。地中海の海岸線からは新鮮な魚介が、内陸の山々からは豚肉や野菜、木の実が届く。その二つを臆せず一皿にまとめる「マル・イ・ムンターニャ(mar i muntanya、海と山)」という発想が、この土地の看板になっています。
フランスに近い立地、独自の言語と文化。他のスペイン地方とは一線を画した食が、ここで育ちました。

カタルーニャ地方とは
カタルーニャは、バルセロナを州都とするスペイン北東部の自治州。地中海沿岸と、ピレネー山脈にほど近い内陸部——性格の違う二つの土地を、ひとつの州が抱えています。
この地理が、そのまま食文化の元手になりました。海沿いでは漁業が盛んで、タコのガリシア風(プルポ)に通じる新鮮な海の幸が揚がる。一方、内陸では豚の飼育、そしてナッツや乾果、きのこの採集が古くから行われてきました。
つまり、わざわざ遠くから取り寄せなくても、海と山が同じ市場に並んでいる。混ぜないほうが不自然だった、という言い方もできます。
歴史・由来
この食文化は、地中海交易の要衝として栄えた歴史と切り離せません。古代ローマ、そしてアラブ支配の時代を経て、オリーブオイルやアーモンド、香辛料の使い方がこの地に定着していきました。港には、いつも外の世界が入ってきていた。
中世以降はカタルーニャ商人が地中海貿易で繁栄し、他地域との往来のなかで独自の食を組み上げます。そして「海と山を一皿に」という発想の出どころは、案外足元にありました。漁村と農村が、それぞれの産物を持ち寄って交換してきた——その暮らしの習慣に由来するといわれています。思想が先だったのではなく、物のやり取りが先だったわけです。
特徴 ― マル・イ・ムンターニャ
「マル・イ・ムンタニャ」は、奇をねらった思想ではありません。エビと鶏肉を一緒に煮込む。イカと豚肉を合わせる。意外に見える組み合わせが、実際には旨味の相乗効果を生む——結果が出たから残った、というだけの話です。
ただし、放り込めば成立するわけでもない。橋渡しをする道具が二つあります。
ひとつは「ソフリート(sofrito)」。玉ねぎやトマトをじっくり炒め煮詰めたソースです。もうひとつは「ピカーダ(picada)」。アーモンドやパン、ニンニクをすり潰したペースト。この二つが、シチューや煮込みにコクと一体感を与え、海と山を同じ味の土俵に乗せます。すり潰して繋ぐという発想は、焼きパプリカとナッツのロメスコソースにも受け継がれている考え方です。
一方で、パン・コン・トマテのように、パンにトマトをすり込んでオイルをかけただけの一皿も、この食卓には欠かせません。凝るときは凝り、削るときは削る。両方あって、カタルーニャです。

代表的な料理
名前を挙げていくと、この地方の幅の広さがよく分かります。焼いた野菜を冷やしてマリネするエスカリバーダ。白インゲン豆とソーセージを煮込むファバダに似た豆料理。そして、表面を香ばしく焦がしたデザートクレマ・カタラーナも、ここの生まれです。
魚介の煮込みも豊富で、そこにイベリコ豚の生ハムやチョリソー(スペインの腸詰)といった山の保存食が加わり、味に深みを足す。海の料理の隠し味が山から来る——これも立派なマル・イ・ムンターニャです。
そして忘れてはならないのが火の使い方。炭火や薪料理で焼き上げるカラソット(青ねぎを焼いてロメスコソースで食べる料理)のように、素材そのものの香ばしさを引き出す調理法も、この地方の得意技です。
ワインとの相性
ワインでも、この土地は二枚看板です。カヴァに代表されるスパークリングワインの一大産地であり、同時に内陸のプリオラートが力強い赤の銘醸地として世界的な評価を受けています。泡と、急斜面の赤。ここでも海側と山側で顔が違う。
合わせ方も素直です。海の幸には軽やかな白かロサード(スペインのロゼ)。山の幸の煮込みにはテンプラニーリョやガルナッチャを基調とした赤。海山の幸という土地の性格が、グラスの選択にまで出てしまうわけです。
海と山、二つの恵みが一皿の中で響き合う。カタルーニャ料理の奥行きは、そこから来ています。そのほかの料理やテーマについては、コラム一覧からご覧いただけます。