日曜の正午過ぎ。教会から人が流れ出て、バルのカウンターがみるみる埋まっていきます。手元にあるのは、氷の入ったグラスにオレンジの輪切り。まだ昼食も食べていないのに、もう飲んでいる。

これがスペインの平常運転です。ベルモット(スペイン語でベルムー/Vermut)は、白ワインをベースにニガヨモギなどのハーブや香草、スパイスで香りづけした「フレーバードワイン」の一種。食前酒として広く親しまれ、とりわけ週末の昼、食事の前の一杯として定着しています。

なぜ食事の前に、わざわざ酒を飲むのか。答えは味ではなく、時間の使い方のほうにあります。

食前酒とグラス

ベルモットとは

造り方は、ワインにハーブや薬草、スパイス、甘みを加えるだけ。収穫年の天候がすべてを決めるワインとは、発想がまるで違います。作り手が香りを設計する飲み物です。

赤(ロホ)と白(ブランコ)があり、スペインで幅を利かせているのは前者。ほんのり甘く、ハーブが鼻に抜ける赤いベルモットです。氷を入れ、オレンジかオリーブを放り込んでロックで飲む。畏まる余地のない飲み方で、グラスの形を気にする人もあまりいません。

オラ・デル・ベルムー(ベルモットの時間)

スペインには「オラ・デル・ベルムー(ベルモットの時間)」という言い方があります。日曜や祝日の昼どき、昼食の前に、家族や友人とバルで一杯傾けながら喋る。それだけの習慣に、わざわざ名前がついている。

ここが面白いところです。スペインでは昼食が一日の中心に据えられていて、その前にわざわざ助走の時間を作る。軽く済ませる朝食とは対照的に、昼は前奏から本編まで長い。食事そのものと同じ重さで、この前奏が大切にされています。

飲み方とおつまみ

よく冷やすか、氷を入れてロックで。炭酸で割ることもあります。ほんのり甘く、後ろにほろ苦さ。この苦みが胃を起こしてくれるので、次に来る料理の当たりがよくなります。

合わせるものは、塩気で決まり。生ハムオリーブの実タパス。カウンターに肘をついて、串一本のピンチョスをつまみながら一杯。順番としては、これで正しい。

食事の締めには、食後酒で余韻を楽しむのもおすすめ。ほかのワインや飲み物は、スペインのワインコラム一覧からご覧いただけます。