野菜を真っ黒に焦がす。ふつうなら失敗です。ところがこの料理では、それが正しい手順です。

エスカリバーダ(Escalivada)とは、パプリカ・茄子(なす)・玉ねぎなどの野菜を炭火や薪火でじっくり焼き、皮をむいてオリーブオイルと塩でマリネしたカタルーニャ地方の定番料理。名前の由来はカタルーニャ語の「escalivar(灰の中で焼く)」。もともとは炭火の熾火に野菜を直接埋めて焼く、素朴な調理法を指す言葉でした。焦げるのは皮であって、中身ではない。この分業が、料理名にまでなっています。

由来、作り方、味わいの特徴、そして相性のよい料理まで。灰の中をのぞいてみましょう。

熾火で焼かれる野菜

エスカリバーダとは

野菜を「素焼き」にしてから調味する。それだけの料理です。

主役は赤パプリカと茄子。これに玉ねぎやトマトが加わることもあります。丸ごと直火にかけ、皮が真っ黒に焦げるまで焼いてから皮をむき、果肉だけを裂いてオリーブオイルと塩で和える。

工程を書き出すと、四行で終わります。それでも太陽を浴びた野菜の持ち味が引き出される。冷菜として供されることが多く、前菜やタパスの定番として親しまれています。

歴史・由来

「escalivar」は「灰で焼く」という意味のカタルーニャ語の動詞。農家が薪や炭の残り火に野菜を埋めて焼いた、素朴な調理法に由来するといわれます。

注目したいのは「残り火」です。料理のために火を起こしたのではありません。何かを煮炊きしたあとの、まだ熱を持っている灰。それを捨てずに使う。特別な器具は要らず、家庭の炉端で完結する。だからこそカタルーニャの家庭料理として広く根づきました。

いまではレストランでも供される定番の一皿です。それでも根底には「火だけで野菜をおいしくする」という知恵が息づいています。燃料の熱そのものを料理に取り込むという薪料理の考え方と、ここは完全に地続きです。赤く息づく熾火の使い方を知る人ほど、この料理の要点がわかるはずです。

特徴

直火でじっくり焼くと、野菜の水分が抜けます。残るのは、凝縮した甘みと旨み。ここが第一の変化です。

第二の変化は、皮の内側で起きています。皮ごと焼くため、果肉は蒸し焼きに近い状態になる。外は炭化しているのに、中はしっとりやわらかい。皮が容器の役目を果たしているのです。

そして皮をむいた瞬間、香ばしさだけが果肉に残ります。焦げの苦みは皮とともに捨て、香りだけを受け取る。生野菜にはない奥行きが、こうして生まれる。薪火の香りが移る化学を思えば、この工程の巧さがよくわかります。

味付けはオリーブオイルと塩のみ。それで足りるのは、火が仕事をすでに済ませているからです。

皮をむかれ果肉だけになった焼き野菜

作り方・味わいのポイント

伝統的な作り方では、パプリカと茄子を丸ごと炭火や薪の熾火にのせ、表面が真っ黒になるまで転がしながら焼きます。

コツは、ひとつだけ。焼き上がったら、熱いうちに蒸らすことです。

ボウルなどに入れて置いておくと、自らの蒸気で皮が浮いてきます。冷めてから剥こうとすると、果肉まで一緒に付いてくる。この数分の待ち時間が、仕上がりを分けます。

あとは種を取り除き、果肉を手で細く裂いて器に並べ、良質なスペインのオリーブオイルと塩をまわしかけるだけ。手で裂くという所作は、塩鱈を手で裂くエスケイシャーダにも通じます。

家庭ではオーブンのグリル機能で代用することも多いですが、直火の香ばしさこそが真価。冷やしても常温でもおいしく、時間を置くほど味がなじみます。作った翌日のほうがうまい、という種類の料理です。

産地・バリエーション

カタルーニャ地方全域で作られますが、加える野菜は家庭やレストランでさまざま。玉ねぎやトマトを足して彩りと甘みを補ったり、仕上げにチョリソー(スペインの腸詰)やアンチョビ、ツナを添えて主菜寄りに寄せたり。

似た発想の焼き野菜料理は、スペイン各地に見られます。薪火で野菜の甘みを引き出すグリルも、根っこは同じ考え方。工程が単純な料理ほど、土地の個性が出やすい。制約が少ないぶん、手癖が残るのです。

アンチョビを添えて仕立てた焼き野菜の一皿

料理・ワインとの相性

定番は、焼きたてのパン・コン・トマテイベリコ豚の生ハムと一緒に盛り合わせること。パンにのせて食べると、オイルまで残さず片づきます。

野菜の甘みと燻したような香ばしさには、軽やかな白ワインやロゼ。当店でもスペインワインの中から、料理に寄り添う一杯をおすすめしています。焼きパプリカとナッツをすりつぶすロメスコソースを添えれば、同じカタルーニャの文脈でもう一段深くなる。

焦がして、剥いて、油をかける。それだけの一皿を、ぜひ薪火料理とあわせてお楽しみください。

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