グラスを傾け、明るいほうへかざす。回して、鼻を近づける。含んで、少し置いてから飲み込む。傍から見ると儀式めいていますが、やっていることは点検に近い。
テイスティングとは、色・香り・味わいを順を追って確かめ、そのワインの状態と個性を読み取る作業のこと。スペイン語ではカタと呼びます。
難しそうに見えるのは、順番を知らないからです。手順さえわかれば、誰でも同じ道筋をたどれます。

テイスティングとは
目的は、点数をつけることではありません。そのワインが今どういう状態にあり、どんな性格を持つのかを把握することです。
なぜ把握が要るのか。合わせる料理を決めるため、温度を調整するため、デカンタージュが要るかを判断するため。実務的な理由がちゃんとあります。
そして、もうひとつ。おいしさを言葉にできると、次に選ぶときの手がかりが残ります。記憶が積み上がっていく。
見る、嗅ぐ、含む
色を見る。 グラスを白い背景の上で傾け、縁のあたりを見ます。赤なら、若いうちは紫がかり、年を重ねるとレンガ色へ寄っていく。濃さは品種と造りを教えてくれます。テンプラニーリョは色が濃く出やすく、ガルナッチャはやや明るい。ロサードなら、果皮を漬けた時間の長さが色に出ます。
香りを取る。 まず動かさずに嗅ぎ、それから回して嗅ぐ。回すのは、空気に触れさせて香りを立たせるため。最初に立つのは果実の香り。次に、樽や熟成に由来する香ばしさ。クリアンサ以上の熟成を経たものは、この層が厚くなります。
口に含む。 少量を含み、口の中で広げる。ここで見るのは四つ。酸の強さ、渋みの質、甘みの有無、そしてアルコールの厚み。飲み込んだあとに残る余韻の長さも、大事な情報です。
順番を守ることに意味があります。先に味を見てしまうと、香りの印象が引きずられる。
何を言葉にするのか
香りをたとえる言葉は、覚えるものではなく思い出すものです。柑橘、青りんご、熟した黒い果実、干した果物、香辛料、なめし革。自分の記憶にある匂いと結びつけば、それでいい。
味わいでは、バランスを見ます。酸が立ちすぎていないか、渋みが浮いていないか、アルコールだけが目立っていないか。要素が揃っているとき、そのワインは飲み疲れしません。
状態の確認も含まれます。コルクに由来する不快な匂いが出ていないか。これはコルク栓を使う以上、避けきれない問題です。保存の環境が悪かったものは、香りが痩せて平板になります。
年による違いを見るなら、ヴィンテージの考え方が手がかりになります。同じ畑でも、その年の天候で表情は変わる。
料理との相性
テイスティングは、料理を決めるための下ごしらえでもあります。
酸のはっきりした白だとわかれば、油を切る役に立つ。カラマリのフリットやクロケッタに回せます。渋みが強い赤なら、たんぱく質と脂を持つ皿を探す。熟成肉や骨付きの一枚が候補になります。
香りの方向も見ます。樽由来の香ばしさが立っているなら、薪火の燻香と重ねる。ピメントンの燻した香りとも、同じ方向でつながります。
塩気の強い生ハムやチーズに何を合わせるかも、一口目の印象で見当がつく。ペアリングは勘ではなく、観察の積み重ねです。
家で試すなら、二本を並べて飲み比べるのがいちばん早い。違いは、比べたときにしか見えません。グラスは同じ形で揃えて。当店でも、お好みを伺うときはこの順番で言葉を探していきます。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。