大きな平鍋が、テーブルの中央に置かれます。赤褐色のソースの中から、エビの尾が突き出し、イカの輪が浮かび、白身魚の切り身が顔を出す。貝が口を開けて縁に並んでいる。誰が何を取るかで、少し騒がしくなる。それも含めて、この料理の一部です。
サルスエラ(Zarzuela)とは、複数の魚介をトマトベースのソースで煮込む、カタルーニャ地方の料理のこと。名前は同名の音楽劇「サルスエラ」——歌と台詞が入り混じるスペイン独特のオペレッタ——から取られたと言われます。多彩な出演者が次々に登場する舞台と、鍋の賑やかさを重ねたわけです。
役者が多い料理は、まとめるのが難しい。それをどうやって一皿にしているのか、見ていきます。

サルスエラとは
決まったレシピは、実のところ存在しません。
必要なのは、複数の種類の魚介が入っていること。それだけです。白身魚、アンコウ、イカ、エビ、ムール貝、アサリ。手に入るものを組み合わせる。カタルーニャの港町では、その日の市場の顔ぶれで中身が決まります。
味の土台は、トマト、玉ねぎ、ニンニク、そして白ワインかブランデー。ここに魚の出汁を加えて煮込む。
ブイヤベースと似ている、と言われることがあります。同じ地中海の魚介煮込みですから、当然の指摘です。ただし違いもあります。ブイヤベースがスープを主体とし、魚と汁を分けて供することが多いのに対し、サルスエラは煮汁が濃く、具材と一体になって供される。より「おかず」に近い形をしています。
ソフリートとピカーダ
カタルーニャ料理には、味を組み立てる二つの装置があります。この料理でも、その両方が働いています。
ひとつめがソフリート。玉ねぎとトマトを、オリーブオイルで気長に炒めたもの。時間をかけると、玉ねぎの水分が飛び、糖が色づき、トマトの酸が丸くなる。三十分でも一時間でも炒める。この工程が、料理全体の甘みと厚みを決めます。急いで作ったサルスエラが物足りないのは、たいていここを省いているからです。
ふたつめがピカーダ。乳鉢で、揚げたニンニク、アーモンドやヘーゼルナッツ、パン、パセリ、サフランなどをすり潰したペーストです。これを仕上げの直前に鍋へ落とす。ナッツの油分がソースにとろみを与え、香りが一気に立ちのぼる。
同じ構造はロメスコにも見られます。あちらはナッツとパプリカを主体にした独立したソースですが、発想の根は同じ。ナッツを料理に使うというカタルーニャの伝統が、ここでも骨格を支えています。カタルーニャ料理を理解する鍵は、この二つの装置にあると言っていい。
順番という技術
魚介が多いということは、火の通る速さがバラバラだということです。
イカは長く煮ないと硬い。エビは数分で十分。白身魚は崩れやすい。貝は開いたら終わり。これを同じ鍋で扱うには、入れる順番を組み立てるしかありません。
一般的には、まずソフリートをつくり、そこへイカのように時間のかかるものを入れて煮る。次に厚みのある白身魚。エビは終盤。貝は最後に放り込んで、蓋をして開かせる。貝は開いた瞬間が合図ですから、そこで火を止めれば全体がちょうどよく仕上がる。
崩れにくい素材を選ぶことも技術のうちです。アンコウが重宝されるのは、骨が一本で身が締まり、長く煮ても形が残るから。素材の性質を知った上で配役を決める、という点でも、やはり舞台に似ています。
同じ地中海の魚介を扱っても、パエリアは米に旨みを吸わせる料理で、こちらは汁に旨みを集める料理。米料理とは目的が違います。
ワインとの相性
トマトの酸、ナッツのコク、魚介の甘み。単純な白では受け止めきれないことがあります。
厚みのある白がひとつの答えです。リアス・バイシャスの中でも樽を使ったタイプや、しっかりした造りのものなら、ソースの濃さに負けません。
もうひとつの答えがロサード。トマトベースの魚介料理には、これが驚くほどよく合います。赤い果実の風味がソースと同調し、酸が魚介を引き立てる。迷ったらこれ、と言える組み合わせです。
軽めの赤も成立します。渋みの穏やかなガルナッチャなら、ナッツのコクと呼応する。ただし温度は低めに。冷やした赤のほうが、魚介の繊細さを損ないません。
大鍋を囲んで取り分ける。舞台の名を持つ料理にふさわしい、賑やかな食べ方です。ほかの海の料理は、コラム一覧からどうぞ。