酒蔵に入ると、空気がひんやりしています。外は焼けつくような陽射しなのに、高い天井の下は別世界。床に打ち水がしてあり、樽が三段、四段と積み上がっている。

シェリーとは、スペイン南部ヘレスとその周辺で造られる酒精強化ワインのこと。発酵の途中や後にアルコールを加えて度数を高め、独特の熟成をかけて仕上げます。現地ではヘレスと呼ばれ、その名前がそのまま産地の名でもあります。

辛口から極甘口まで、驚くほど幅がある。同じ地域の、同じぶどうから、なぜこれほど違うものが生まれるのか。

ワインセラーに並ぶ樽

シェリーとは

まず土地の話から。ヘレスはアンダルシアの西端にあり、大西洋からの湿った風が届きます。夏は暑く乾く。この土地の畑には、アルバリサと呼ばれる白い土が広がっています。石灰質を多く含み、光を反射し、雨水を蓄えて乾季に少しずつ根へ返す。

主役の品種はパロミノという白ぶどうです。単体ではおとなしく、際立った個性を持たない。ところがこの淡白さが、熟成の過程で複雑さを受け入れる余白になります。

そこへアルコールを加えます。度数の設定によって、その後の運命が二手に分かれる。ここがシェリーの分岐点です。

フロールという膜と、樽を重ねる仕組み

度数を低めに設定した樽では、液面に白い膜が張ります。フロール(花)と呼ばれる産膜酵母の層です。この膜が空気を遮り、ワインの酸化を防ぐ。同時に酵母は成分を食べ、パンやアーモンドを思わせる独特の香りを残していきます。

度数を高く設定した樽では、フロールは生きられません。ワインは空気に触れながらゆっくり酸化し、色は琥珀へ、香りはナッツやドライフルーツへ向かいます。生物的熟成と酸化的熟成。この二本の道が、種類の違いを生みます。

もうひとつ、この地方特有の仕組みがあります。年代の違う樽を段に分けて並べ、下段から出荷したぶんを上段から補充していく。若い酒が古い酒に少しずつ溶け込み、味が平均化されていく方式です。だから収穫年を表示しない。ヴィンテージという考え方とは、そもそも設計思想が違うわけです。

種類と味わい

フィノ。 フロールの下で育った、淡い色の辛口。すっきりして塩気を感じさせます。よく冷やして。

マンサニージャ。 海沿いの町で熟成させたもので、フィノに近く、さらに軽やか。

アモンティリャード。 フロールの時代を経たあと、酸化熟成へ移ったタイプ。琥珀色で香ばしく、辛口ながら厚みがある。

オロロソ。 最初から酸化熟成の道を進んだもの。色は濃く、力強い。基本は辛口です。

ペドロ・ヒメネス。 同名のぶどうを天日で干して仕込む、黒蜜のような極甘口。デザート専用と言っていい濃さです。

甘口と辛口が同じ産地に同居している。それがこの酒の面白さです。

料理との相性

シェリーはスペインのバルの日常に溶けています。立ち飲みのカウンターで、辛口のフィノを一杯。合わせるのはアセイトゥナスボケロネス、あるいはアーモンドなどの乾いた実。塩気とうまみが、フィノの塩っぽさに響きます。

アンダルシア風の揚げもの小イワシイベリコ豚の生ハム。ヘレスと同じ土地の味には、ほとんど何を合わせても収まります。同じ地域で育ったシェリー酢が料理を引き締めるのと、理屈は地続きです。

アモンティリャードやオロロソになると、守備範囲が広がります。きのこ熟成チーズカジョスのような内臓の煮込みラボ・デ・トロ。香ばしさ同士が手を組む組み合わせです。薪火の料理とも思いのほか噛み合います。

ペドロ・ヒメネスはフラントリハスに、ほんの少しだけ。あるいは食後の時間そのものを甘くする一杯として。温度は種類ごとに変えるのが基本で、辛口はしっかり冷やし、酸化熟成のものは軽く冷やす程度に。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。