ビスケー湾に面した斜面に、棚仕立てのぶどう畑が広がっています。海はすぐそこ。潮を含んだ風が、一日じゅう葉を揺らしています。畑を背にして振り返れば、漁船の並ぶ小さな港が見える。
ゲタリアコ・チャコリーナとは、スペイン北部バスク地方のゲタリア周辺で造られる、チャコリの原産地呼称のこと。チャコリを名乗る三つの呼称のうち、最も歴史が知られ、生産量も多い産地です。
漁村のワインです。だから、性格がはっきりしている。

ゲタリアコ・チャコリーナとは
チャコリはもともと、バスクの各家庭や村が自分たちで飲むために造ってきた白ワインでした。売るためのものではなかった。それが原産地呼称として整理され、名前を持つようになります。
ゲタリアコ・チャコリーナは、その中心にある呼称です。ゲタリアはギプスコア県の海沿いの町で、漁業とともに生きてきた土地。ワインもまた、その暮らしの一部でした。
味わいは、軽やかで酸が高い。アルコールはやや控えめ。瓶の中に残したわずかな炭酸が、口に含んだ瞬間に舌を刺激します。強く主張するタイプではありません。飲み込んだあとに、すっと消える。
海のそばという条件
この土地は、雨が多い。大西洋から湿った空気が絶えず流れ込み、日照は限られます。ぶどうが完熟しきらない年もある。
そこで生まれるのが、高い酸です。糖が上がりきらないぶん、酸が残る。産地の性格を決めるのは、多くの場合こうした気候の条件です。土地とワインの関係は、恵まれた条件だけで語れるものではありません。
湿気への対策として、樹は棚状に高く仕立てられます。地面から離せば風が通り、房が乾く。同じ北スペインでも、リアス・バイシャスが似た事情から棚仕立てを選んでいるのは偶然ではないでしょう。
主役の品種はオンダラビ・スリと呼ばれる白ぶどうです。バスクの土地に根づいた品種で、この酸の高さと軽さは、その性質によるところが大きい。赤やロサードを造る造り手もいますが、この産地の顔はやはり白です。
高く掲げて注ぐ理由
チャコリは、ボトルを頭の高さまで持ち上げて注がれます。バルのカウンターで見かける、あの光景です。
理由は単純で、落差をつけることで泡を立たせるため。瓶に残ったわずかな炭酸を空気とぶつけ、飲む直前に開かせます。同時に香りも開く。派手な演出に見えますが、目的は味のほうにあります。
だから、注いだらすぐに飲む。時間を置くと泡は消え、酸だけが残ります。温度も低めが向いていて、しっかり冷やしたほうが輪郭が出る。グラスの形は、香りを溜め込まない浅いものが好まれます。
小さなグラスに少しずつ注ぐのも、この飲み方に合っています。一杯を長く持たない。何度も注ぎ足す。
料理との相性
漁村のワインですから、海のものと合わないはずがありません。
酸が脂と塩を切ります。イワシを炭火で焼いた一皿、小イカのフリット、アンチョビ。バスクのピンチョスを何本か並べるなら、この一杯で最後まで通せます。アサリの白ワイン蒸しのように、料理そのものが酸をまとった皿とも相性がいい。
揚げものにも効きます。カラマリのフリットの衣を、酸が軽くしてくれる。生ハムの脂を流す使い方もあります。
土地のものを、土地のワインで。ペアリングの基本に立ち返れば、この産地ほど分かりやすい例も少ないと思います。当店でも、最初の一杯にこうした軽い白を選ぶ方は多い。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。