バスクのバルのカウンターで、店主がボトルを頭の高さまで持ち上げます。狙いはグラス。落差三十センチ、ざあっと注ぐ。飛び散らないのかと心配になりますが、慣れた手はこぼしません。
これがチャコリ(Txakoli/チャコリン)です。スペイン北部バスク地方で造られる、わずかに泡立つ白ワイン。きりっとした酸、低めのアルコール、軽い発泡。飲みやすさで押してくる一杯で、バスクのバル文化からは切り離せません。
なぜ、あんな高さから注ぐのか。話はそこに行きます。

味わいの特徴
青りんご、柑橘。香りはフレッシュで、口に入ればいきいきとした酸、奥にかすかな塩気。海の近くで育ったワインだと、飲めば伝わってきます。アルコール度数は低く、微発泡の軽快さも相まって、するすると進む。よく冷やすのが決まりで、サーブの温度を外すと持ち味が鈍ります。
品種は「オンダラビ・スリ」。バスクの土着の白ぶどうです。テンプラニーリョやガルナッチャのように国外まで名を広めた品種ではありません。この土地の、この一杯のためだけの葡萄です。
高くから注ぐ作法
冒頭のあれには、理由があります。ボトルを高く掲げ、グラスめがけて落とす「エスカンシア」に似た作法。落下の途中でワインが空気を巻き込み、かすかな泡が立ち、香りがほどける。注ぐという動作そのものが、仕上げの工程なのです。グラスの形が香りを変えるのと同じ話が、注ぎ方の側で起きている。
見ていて楽しいのも確かで、バルの陽気さとよく合います。ただ本質は、味のための所作です。
料理との相性
軽やかで酸がある。この二つが揃えば、合わせ先はほぼ決まります。バスクのピンチョス、そして魚介。アサドールで豪快に焼いた魚の焦げ目と脂を、この酸がすっと洗い流します。生ハムやタパスのような塩気のあるつまみとも噛み合いますし、食前の一杯としても素直に働きます。
同じスペインの泡なら、瓶内二次発酵の本格スパークリング「カバ」もあります。ほかのワインや種類は、スペインのワインやコラム一覧からご覧いただけます。