黒い大地です。一面が火山灰と溶岩の礫。作物が育つようには見えません。その黒の中に、すり鉢状の窪みがいくつも掘られ、底に一株ずつぶどうの樹が植わっています。
カナリア諸島のワインとは、アフリカ大陸の西、大西洋に浮かぶ火山島群で造られるワインのこと。島の食文化と同じく、本土とはまったく違う条件から生まれています。
土地が、味を決める。この島ほど、その言葉が素直に当てはまる産地もありません。

カナリア諸島のワインとは
諸島にはいくつもの原産地呼称があり、島ごと、さらには島の中の地区ごとに性格が分かれます。テネリフェ、ランサローテ、ラ・パルマ。標高も土壌も違えば、当然ワインも違う。
共通しているのは、土壌が火山由来であること。そしてもう一つ、フィロキセラの被害をほとんど受けなかったという事情があります。そのため、大陸では失われた古い品種が島に残りました。
固有品種の名前が並ぶのは、そのためです。白のマルバシア・ボルカニカ、リスタン・ブランコ。赤のリスタン・ネグロ、ネグラモール。スペインワイン全体を見渡しても、この顔ぶれは島だけのものです。
灰を掘って、風を避ける
ランサローテの畑は、写真で見ると異様です。黒い平原にすり鉢状の穴が並び、その底に樹が一本ずつ。穴の縁には、風よけの石垣が半円に積まれています。
雨がほとんど降らない島です。そこで、地表を覆う火山灰の層を使う。灰は夜間の湿気を吸い、下の土へ水を渡します。穴を掘るのは、その湿った層に樹の根を近づけるため。石垣は貿易風から房を守るためです。
灌漑ではなく、土地の性質そのものを使って水を確保する。乾いた土地の農法という点では、アラゴンの保存の知恵や乾燥地帯の畑に通じる発想かもしれません。
一方、テネリフェでは標高が武器になります。斜面を高く登るほど気温は下がり、酸が保たれる。同じ島の中で、海抜数百メートルの差が味を分けます。
味わいの手がかり
白は、柑橘とハーブの香りに、独特のミネラル感が重なります。火山土壌に由来するとよく言われる、硬質で塩気を思わせる印象です。マルバシアには辛口も甘口もあり、島では古くから甘口が造られてきました。
赤は、色の濃さで押すタイプではありません。中程度の色調で、赤い果実の香りに、かすかな煙のようなニュアンスが混じることがある。タンニンは穏やかで、若いうちから飲みやすい。
テンプラニーリョやガルナッチャの力強さを期待すると、拍子抜けするかもしれません。この島のワインは、別の物差しで測るものです。香りの個性で選ぶ。温度は赤でもやや低めにすると、輪郭がはっきりします。
料理との相性
島の料理と合わせるのが、いちばん分かりやすい。
モホを添えた料理には、島の白か軽い赤を。赤いモホの辛みと、緑のモホの青い香り。どちらも強い味ですが、酸のある白が受け止めます。塩をまとった皮つきの小さなじゃがいもにも、同じ組み合わせが効きます。
島のチーズには白を。ワインとチーズの相性は、産地を揃えると外れにくくなります。魚なら塩釜焼きのように素材を素直に出した皿が向いていて、薪火で焼いた野菜にも軽い赤が寄り添います。
大西洋の島だけあって、魚介の使い方は本土の海沿いと似ています。ペアリングで迷ったら、まず土地を合わせる。それだけで大きくは外れません。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。