カウンターの上が、埋まっている。皿がずらりと並び、そのどれにも楊枝が一本ずつ刺さっている。メニューを探す必要はありません。品書きは、目の前に置かれています。
ピンチョス(Pintxos/ピンチョ)とは、スペイン北部バスク地方で親しまれる一口サイズの料理。小さく切ったパンの上に食材をのせ、楊枝(ピンチョ=突き刺すもの)で留めた形が基本です。
つまりこの料理は、皿の上ではなくカウンターの上で完成している。だから店に入った瞬間、その店の実力が全部見えてしまいます。隠す場所がありません。

ピンチョスとは
ピンチョスの語源は「突き刺す」を意味する pinchar。楊枝や串で具材をパンに留めていることに由来します。名前が、そのまま作り方の説明になっているわけです。
具材は実に多彩。生ハム、チーズ、魚介、卵、野菜。塩漬けの小魚がのることもあります。
そして冷たいものだけではありません。注文してから焼いてもらう温かい一皿も並んでいます。カウンターの上は完成品、その奥では火が動いている——この二段構えが、バスクのバルの実力です。
タパスとの違い
「タパス」と「ピンチョス」は、しばしば同じものとして語られます。が、指しているものは少しずれています。
タパスはスペイン全土で使われる「小皿料理」全般。対してピンチョスは主にバスク地方の呼び名で、パンにのせて串で留めたスタイルを指すことが多い。
言い換えれば、ピンチョスはタパスの一形態でありながら、土地の名前と作法までセットで背負っている。だからアンダルシアのバルとバスクのバルでは、カウンターの風景がまるで違います。

バルでの楽しみ方
作法は、驚くほど大雑把です。カウンターに並んだピンチョスを自分で皿に取る。誰も数えていません。そして最後に、食べた串の数で会計する。
つまり、自己申告です。 客を疑わないという前提のうえに、この会計方式は成り立っています。
そしてもうひとつ。一軒でじっくり腰を据えるのは、あまりバスク流ではありません。一杯とひと皿で切り上げ、次の店へ。数軒を渡り歩く「バル巡り(ポテオ)」こそが本番です。カウンターに立って飲む身軽さは、この移動のためにあります。
合わせる一杯は、微発泡のチャコリやスペインのワイン、ビールなど。オリーブの実と並んで、この国の気軽な食の楽しみを象徴する存在です。
串一本の上に、店の技と、街の社交が同時にのっている。ほかの料理は、コラム一覧からどうぞ。