棚の前に立つと、ボトルが壁のように並んでいます。読めない地名、聞いたことのない品種、意味の分からない略号。どこから手をつければいいのか。

そう思う人は多いはずです。けれど、スペインワインに関して言えば、入口は思っているより狭い。覚えることは三つしかありません。

スペインワインの選び方とは、産地・品種・熟成表記という三つの手がかりから、味の輪郭を絞り込んでいく作業のこと。この三つを押さえれば、大外しはしなくなります。

棚に並ぶワインボトル

まず、三つだけ覚える

一つ目、産地。 どこで採れたぶどうかが分かると、気候が分かる。気候が分かると、味の傾向が読めます。日照の強い内陸なら濃く力のある赤、海に近い北なら酸のある白。それだけで半分は絞れる。

二つ目、品種。 スペインの赤はテンプラニーリョガルナッチャを知っていれば、かなりの範囲をカバーできます。前者は落ち着いた果実味と樽との相性、後者は丸みのある果実味。この二つの名前を覚えるだけで、棚の見え方が変わります。

三つ目、熟成表記。 クリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバ。樽と瓶で寝かせた期間を示す言葉で、長いほど渋みは丸く、香りは複雑になります。スペインワインならではの仕組みで、これがあるおかげで飲み頃の一本を選びやすい。

この三つがラベルに書いてあります。知識が増えてから飲むのではなく、飲みながら増やせばいい。

最初の一本を、どう決めるか

いきなり一本買うより、グラス一杯から始めるのが確実です。合わなければ次を頼めばいい。

それでも一本を選ぶなら、目安はこうです。

赤なら、クリアンサ表記のテンプラニーリョ。 これが最も外れにくい。樽で寝かせているので渋みが丸く、果実味と香ばしさの釣り合いがいい。価格帯もこなれた、標準形と言っていい一本です。

白なら、北の海沿いの産地から。 リアス・バイシャスのような大西洋に面した土地の白は、酸がきれいで分かりやすい。魚介と合わせれば、迷うことはまずありません。

何を食べるか決まっていないなら、泡かロサード どちらも料理を選ばない。冷やせばそれだけでおいしく、失敗という感覚になりにくい。

濃い赤に挑むのは、そのあとでいい。プリオラートのような力のある産地は、料理と合わせてこそ真価が出ます。

ラベルは、こう読む

裏側の小さなラベルを見ます。書いてある情報は、意外に限られています。

産地の名前。その下に略号。DOと書いてあれば原産地呼称を持つ産地です。ここが格付けの表記にあたります。細かい区分は後で覚えればよく、まずは産地名を読むだけで十分。

熟成表記があれば、それも見る。年号はヴィンテージ、つまり収穫年です。熟成表記があるものは蔵で寝かせてから出荷されるので、年号が少し古くても心配は要りません。

品種が書かれていないときは、産地から推測する。原産地呼称の枠組みでは、産地ごとに使える品種が決まっているからです。読めなくて困ったら、聞くのが早い。「肉料理に合う、渋すぎない赤」と伝えれば、それで話は通じます。

飲むときの、最低限のこと

温度を気にする。 これがいちばん効きます。赤は室温そのままだと重く、少し冷やすと締まる。白は冷やしすぎると香りが閉じる。提供温度は、味を大きく動かします。

グラスは、大きめを。 香りが立つ空間があるほうがいい。グラスの形で印象が変わるのは、すぐ分かるくらいはっきりしています。

開けてすぐ硬ければ、少し待つ。 空気に触れると開いてきます。デカンタージュまで構えなくても、注いで数分置くだけで違うことがある。

残ったら、栓をして冷蔵庫へ。 保存の基本は、温度を下げて空気を減らすこと。コルク栓でもスクリューキャップでも、考え方は同じです。

料理との相性

いちばん確実な近道は、料理から選ぶことです。同じ土地のもの同士は、たいてい合う。

生ハムマンチェゴチーズには、果実味のある赤。塩気と果実味は、互いを引き立てます。

アヒージョアサリといった海のものには、冷えた白。パエリアなら、具材に合わせて白でも淡い色の一本でも成立します。

薪火で焼いた肉には、樽を経た赤。チュレトンのような主役級の皿には、それに見合う一本を。タパスを何品も並べるなら、料理を選ばない泡から始めるのが楽です。

最初から正解を当てる必要はありません。合わなかった組み合わせも、覚えていれば次の手がかりになる。ペアリングは暗記ではなく、試した記憶の積み重ねです。当店でも、まずは一杯からご案内しています。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。