棚に並んだボトルの背面に、小さなラベルが貼られています。産地の名前と、その下にアルファベットが数文字。DO、DOCa、VT。
読み飛ばしてしまいがちな部分ですが、ここには情報が詰まっています。どこで採れたぶどうか。どんな規律のもとで造られたか。飲む前に分かることは、意外に多い。
スペインワインの格付けとは、産地の範囲と造りの規律の厳しさに応じてワインを区分する仕組みのこと。等級というより、約束の細かさを示す目印だと考えると分かりやすくなります。

格付けとは、何を保証するものか
まず、大事な前提があります。格付けは、味の順位ではありません。
上位の区分だから必ずおいしい、という保証はどこにもない。保証しているのは、「名乗った産地のぶどうを使い、定められた造り方に従っている」ということです。産地の名を守るための仕組みであって、品質の点数表ではない。
とはいえ、無関係でもありません。規律が厳しくなるほど、収量の上限が下がり、熟成期間の下限が上がる。手をかけざるを得なくなる。結果として、品質が安定しやすい傾向はあります。この考え方の土台は、原産地呼称という制度そのものにあります。
DOとDOCa、その差はどこにあるか
日常でいちばん目にするのがDOです。原産地呼称保護を受けた産地を意味し、各地に数多く存在します。ラ・マンチャもナバラも、この区分に属します。
DOを名乗るには、区域内で栽培されたぶどうを使い、認められた品種で、定められた製法に従う必要があります。産地ごとに規制委員会があり、審査を通ったものだけがラベルに産地名を出せる。
その上に、DOCaという区分があります。特選原産地呼称と訳されます。DOとして長い実績を積み、より厳しい基準をクリアした産地だけが名乗れるもので、該当する産地はごくわずかです。
厳しさは、取引の管理にまで及びます。瓶詰めまでを産地内で完結させる、といった規定が加わる。産地の名を借りた別物が出回らないようにするための仕組みです。プリオラートのように、産地の名がそのまま価値になっている土地では、この管理の意味が大きくなります。
DO以外の区分も知っておく
DOの外にも、いくつかの区分があります。
VTは地酒にあたる区分です。産地の範囲は広く、品種や製法の縛りもゆるやかになります。ただし、これは「格下」を意味しません。DOの規定に合わない品種を試したい造り手が、あえてこの区分を選ぶことがあるからです。実験的な一本が、ここに紛れていることがある。
VPは、単一の生産者が持つ畑に対して与えられる区分です。産地ではなく、特定の蔵とその畑そのものを単位とする。産地全体ではなく個別の畑を評価するという点で、性格の違う制度になっています。
つまり、ピラミッドの頂点にあるものが常に最良とは限らない。等級は味の順位ではなく、約束の細かさを示している。 ここを押さえておくと、ラベルの読み方に余裕が出ます。
熟成表記と、どう組み合わさるか
格付けとは別の軸で、もうひとつラベルに書かれるものがあります。熟成期間の表記です。
クリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバ。樽と瓶で寝かせた期間に応じた区分で、産地ごとに具体的な年数が定められています。同じDOのなかでも、この表記によって性格は大きく変わる。
だから、ラベルは二つの軸で読みます。どこで造られたか(格付け)と、どれだけ寝かせたか(熟成表記)。 この二つが分かれば、味の輪郭はかなり絞り込めます。
そこに品種の情報が加わると、さらに具体的になる。テンプラニーリョ主体のレセルバなのか、ガルナッチャの若い一本なのか。ヴィンテージの年号は、その年の天候を推し量る手がかりです。
実践は単純です。気に入った一本があったら、産地・熟成表記・品種の三つを覚えておく。次に選ぶとき、それが最短の道標になります。テイスティングの印象と結びつけて記録すると、なお効く。
料理との相性
格付けから料理を考えるなら、産地を手がかりにするのがいちばん早い。同じ土地で育ったものは、たいてい合うからです。
内陸の乾いた産地の濃い赤なら、薪火で焼いた熟成肉やコチニージョのような、火をまっすぐ入れた皿がよく合います。
大西洋側の白であれば、ガリシアの魚介やタコ。海と畑が近い土地のワインは、海のものとの距離も近い。
熟成表記が長いものほど、時間をかけた料理と歩調が合います。ラボ・デ・トロのような煮込み、あるいは熟成させたチーズ。若い一本は、タパスや腸詰めのように気負わない皿と並べたい。
ラベルの略号が読めるようになると、店で迷う時間が減ります。ペアリングを考えるときも、産地さえ分かれば話は早い。当店でも、ご案内の最初に産地からお話しすることが多いのは、そのためです。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。