夏の午後、畑には陰がありません。地面は乾ききって白っぽく、空気が揺れている。それでいて夜になると気温は一気に下がり、朝方は肌寒い。冬には氷点下まで落ちる。
トロとは、スペイン中北部のドゥエロ川沿いに広がる原産地呼称のこと。ここで造られる赤は、色が黒に近く、渋みが強く、アルコールも高い。ひと口飲めば、産地の名を覚えてしまうような赤です。
なぜこれほど濃くなるのか。極端な土地が、極端な酒を生んでいるからです。

トロとは
カスティーリャの内陸、標高六百メートルから七百メートルほどの高原に畑が広がります。海からは遠く、山に囲まれて湿った空気が届かない。
気候は、大陸性の極端な形。夏の日中は非常に暑く、日照時間が長い。冬は厳しく冷え込む。降水量はきわめて少なく、灌漑なしで育つ樹は自力で水を探すしかありません。
土壌は砂質が多く、水はけがよい。ここに一つ、この産地にとって決定的な事実があります。砂の多い土壌はフィロキセラの被害を受けにくく、そのため接ぎ木をしていない自根の古い樹が、いまも各地に残っている。
樹齢の高い株は収量が少なく、房も小さい。そのぶん、実に味が詰まります。
テンプラニーリョの、別の顔
主役の品種はテンプラニーリョです。ただし、この土地では現地の呼び名で呼ばれ、系統も少し違うとされます。
リオハやリベラ・デル・ドゥエロで育つ同じ品種と比べると、果皮が厚く、色素が濃い。強い日照のもとで糖度が高く上がるため、発酵後のアルコール度数も高くなります。渋みの量も多い。
同じ品種でも、育つ場所が違えばまったく違うワインになる。この事実を、これほどわかりやすく示す例もありません。土地が、味を決める。
ガルナッチャが補助的に使われることもあり、果実の丸みを足す役割を担います。
味わいと、熟成の役割
若いトロは、率直に言って荒々しい。色は不透明なほど濃く、黒い果実の香りが押し寄せ、渋みが口の中を覆います。力はあるが、粗い。
だから、この産地では熟成が重要な意味を持ちます。樽で寝かせることで渋みの角が落ち、香ばしさが加わる。瓶の中でさらに時間が経つと、荒さがまとまり、複雑さが出てくる。クリアンサやレセルバといった熟成区分は、この土地では単なる表示以上の実質を持っています。
近年は、抽出を控えめにし、渋みを穏やかに仕上げる造りも増えました。濃さを誇示するのではなく、飲みやすさとの折り合いを探る方向です。とはいえ、涼しい産地のメンシアのような繊細さを求める土地ではない。ここは、力の産地です。
ヴィンテージによる差は当然出ますが、日照が安定しているぶん、極端な不作は少ないとされます。
料理との相性
強い赤には、強い料理を。ペアリングの基本でいう「重さを揃える」が、ここでは必須条件になります。
まず熟成肉。チュレトンのような骨付きの大きな一枚を、炭火や薪火で焼いたもの。トロの渋みは肉のたんぱく質と結びついて和らぎ、脂は渋みを丸くする。互いに助け合う関係です。焼き加減が決まった一枚なら、なおいい。
同じ地方の名物である仔羊のローストやコチニージョは、産地が重なる組み合わせ。薪窯とアサドールで焼き上げた肉には、この赤が待ち構えています。
煮込みも合います。ラボ・デ・トロ、カジョス、コシード。時間をかけたもの同士は、自然に手を取り合う。イベリコ豚のプレサやチョリソーのような、脂と香辛料のある皿にも。
熟成チーズ、とくに青カビのカブラレスのような強いものにも負けません。冬の薪料理の食卓には、この一本を。
温度は上げすぎないこと。十八度を超えるとアルコールが立ちます。グラスは大きめを選ぶと、渋みが空気で丸くなる。ほかの産地の話はコラム一覧からどうぞ。