同じ薪を、同じ量だけ燃やす。同じ肉を焼く。それでも、皿に出てくるものは別物になります。理由は、火の周りに壁があるかどうか。それだけです。
薪窯(まきがま)とアサドールは、どちらも薪料理に欠かせない道具ですが、構造と熱の伝わり方が正反対です。薪窯はドーム状の空間に食材を入れて焼く「密閉型」。アサドールは炎や熾火(おきび)に食材を直接さらす「開放型」。
囲うか、開くか。この一点の選択が、香りも食感も分けてしまう。

薪窯とは
薪窯は、石やレンガ、土でドーム状に囲った窯です。ここで薪を燃やし、その熱で食材を焼く。
ただし、焼くのは火そのものではありません。まず窯の内部で薪を燃やし、壁を十分に熱する。それから熾火を寄せたり取り除いたりして、蓄熱した壁面からの輻射熱と、こもった熱気で食材を包む。つまり、火が去ったあとの壁が仕事をしている。
得意なのは、パンやピッツァ、そしてじっくり火を入れたい肉や野菜の丸焼き。均一に、そして深くまで熱を届けたいときの道具です。
アサドールとは
アサドールという言葉は、道具と人の両方を指します。スペイン語で「焼く人・焼く道具」。この二重の意味が、そのまま性格を表しています。
薪や炭の炎・熾火に、食材を直接さらす。網や鉄格子(パリージャ)を使う、あるいは十字に組んだ棒に食材を固定して火にかざす。壁がないので、炎の熱と煙が食材にじかに触れます。だから道具だけでは完成しない。誰かが横に立っていなければならない。
魚介や骨付き肉を豪快に焼き上げるバスク地方のアサドール文化は、この道具の名を冠したものです。美食の聖地と呼ばれる土地が、開放型の火を選んだ。
構造と熱の伝わり方の違い
薪窯は、熱を逃しません。密閉した空間に閉じ込め、壁面の蓄熱と対流する熱気で食材全体を包む。庫内は高温で、しかも安定している。外はパリッと、中はふっくら——この二つを同時に狙いやすいのは、温度が動かないからです。
アサドールは、蓋をしない。炎や熾火からの輻射熱(ふくしゃねつ)が直接届き、煙も自由に立ちのぼる。だから香ばしさとスモーキーな風味が強く出る。煙の芳香が食材に移る仕組みがそのまま働く環境です。
代わりに、安定は捨てています。火力の管理が難しく、食材と炎の距離や向きを絶えず調整しなければならない。炭火と薪火の性質の違いも、開放型ではそのまま結果に出ます。窯は放っておけば焼ける。炉は、離れられない。

それぞれに向く料理
窯に向くのは、時間のかかるものです。パンやピッツァのように均一な熱が欲しい料理。コチニージョ(子豚のロースト)や仔羊のローストのように、丸ごとの塊にゆっくり火を通したい料理。熱が芯まで届くのを待てる環境だから、皮目はパリッと、中はしっとりに落ち着きます。
炉に向くのは、短時間で決めるものです。魚介、骨付き肉、野菜。炎の香りを表面にまとわせ、内部は入れすぎない。いわゆる「レア寄り」の焼き加減を見極める仕事は、こちらの領分です。
つまり、待つ料理は窯へ。決める料理は炉へ。
味わいの違い
薪窯で焼いたものは、味に段差がありません。均一な火入れによる安定感があり、薪の香りがじんわりと全体に行き渡っている。
アサドールは逆です。炎に触れた部分だけが強く焦げ、そこから素材の味がまっすぐ立ち上がる。ひと口ごとに印象が違うことすらある。
どちらが上か、という問いはあまり意味を持ちません。均すための道具と、際立たせるための道具。薪の樹種で香りが変わるのと同じで、選択肢が増えたと考えるべきものです。
料理・ワインとの相性
火の性格が違えば、合わせる一杯も変わります。
薪窯でじっくり焼いた肉には、タンニンがなめらかに熟成したクリアンサ・レセルバ。穏やかな火入れには、穏やかな熟成を。
アサドールで炎の香りを強くまとわせた肉や魚介なら、果実味が生き生きとしたガルナッチャ、あるいは骨格のしっかりしたテンプラニーリョ。焦げ香に押し負けない一杯が欲しいところです。リベラ・デル・ドゥエロのような産地を選ぶのも手でしょう。
同じ薪でも、囲えば窯になり、開けば炉になる。それだけで、選ぶワインまで変わってしまう。
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