台所に大きな鍋がひとつ。朝からずっと弱火にかかっていて、蓋を開けるたびに湯気が立つ。作っている本人も、いつ食べ頃になるかを厳密には決めていない。そういう料理です。

コシード(Cocido)とは、ひよこ豆を主役に、肉や腸詰、野菜をじっくり煮込んだスペインの伝統的な煮込み。冬の寒さに体を芯から温める、家庭の味の代表格です。地方ごとに顔があり、なかでも首都の「コシード・マドリレーニョ」がよく知られています。

煮込まれているのは、具材だけではありません。

コシードの主役、ひよこ豆

コシードとは

「コシード」はスペイン語で「煮た(もの)」。料理名としては、これ以上そっけないものもありません。

中身も同じくらい率直です。ひよこ豆、肉類(牛・鶏・豚・腸詰など)、野菜。それを大きな鍋でコトコトと、時間をかけて。技巧ではなく時間が味を作るので、出汁(カルド)の考え方をそのまま鍋一つに詰め込んだ料理といえます。素材の輪郭がほどけ、渾然一体になったところが食べ頃です。

「三段階」で味わう食べ方

コシード・マドリレーニョには、独特の作法があります。ひと鍋を三段階に分けて味わうのです。

まず煮汁で作ったスープ(ソパ)。次にひよこ豆と野菜。最後に肉類。同じ鍋から出たものが、前菜、副菜、主菜として順に運ばれてくる。ひと鍋でコース料理が成立してしまうわけです。バルで小皿を重ねていく流儀とはまるで逆の、ひとつの器に時間をかける豊かさ。合理的でありながら、どこか儀式めいています。

地方ごとの違い

豆と肉を煮る、という発想はスペイン中にあります。ただし、豆が違う。

北部アストゥリアス地方のファバダは、白いんげん豆と腸詰の濃厚な煮込み。カタルーニャの「エスクデーリャ」も、この一族です。手に入る豆と肉が違えば、鍋の味も変わる——素朴で滋味深いカスティーリャから北の山あいまで、同じ思想が土地ごとの顔をして受け継がれています。

楽しみ方

体を温める煮込みには、しっかりした赤ワインがよく合います。リオハガルナッチャテンプラニーリョ主体の一杯とともに、ゆっくり味わいたい一品です。

同じく時間をかける薪料理にも通じる、スペインの「時間の料理」。ほかの料理は、コラム一覧からご覧いただけます。