エブロ川に沿って、なだらかな丘が続きます。背後には山脈。手前には畑。石の多い斜面に、低く仕立てられたぶどうの樹が並んでいます。
リオハとは、スペイン北部のエブロ川流域に広がるワイン産地であり、原産地呼称の名前でもあります。スペインワインと聞いて多くの人が最初に思い浮かべる地名で、赤ワインの評価が特に高い。
なぜここが代名詞になったのか。地形と、ある一つの選択が関わっています。

リオハとは
この土地の面白さは、気候が一つに定まらないところにあります。
北西からは大西洋の湿った空気が入り、南東からは地中海の乾いた暑さが届く。さらに内陸の大陸性気候が加わる。三つの性格が谷の中で混じり合い、場所ごとに条件が変わります。山脈が北風を遮り、川が温度をならす。
結果として、同じ産地の中に涼しい区画と暑い区画が同居することになりました。酸を保った繊細なぶどうと、よく熟した力強いぶどう。その両方が手に入る。ブレンドの幅が広いというのは、産地にとって大きな武器です。
テンプラニーリョという主役
リオハの赤を支えているのはテンプラニーリョです。早熟という意味の名を持ち、皮は厚く、酸と渋みのバランスがいい。単体でも成立しますが、リオハでは他の品種を少し混ぜるのが伝統です。
たとえばガルナッチャ。果実の甘やかさと丸みを足します。ほかにマスエロやグラシアーノといった土着品種も使われる。それぞれ足りないところを補い合う設計で、単独の突出よりも全体の均衡を選ぶ考え方です。
白ワインも造られます。ビウラ(マカベオの別名)を中心とした白は、樽を使ったものと使わないものがあり、性格がはっきり分かれます。樽を使わない白は、ガリシアの魚介のような素材本位の皿にも寄り添います。
早く売らないという選択
リオハを特別にしたのは、品種以上に熟成の文化だと思います。
多くの産地では、ワインは造ってすぐ出荷されます。当然です。ところがリオハの造り手たちは、蔵で寝かせてから世に出す道を選んだ。樽で数年、瓶でさらに数年。在庫を抱える期間が長くなる不利を承知のうえで。
この習慣がクリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバという熟成区分として制度化され、買う側にとってのわかりやすい目印になりました。ラベルを見れば、どれだけ待たれた一本かがわかる。手ごろな価格帯でも熟成の味が楽しめるのは、この文化の副産物です。
樽由来のバニラや甘い香ばしさ、時間が丸くした渋み。リオハらしさと呼ばれるものの多くは、この寝かせる時間から来ています。
地区ごとの性格
産地の中も一様ではありません。西寄りの区画は標高が高く涼しく、酸のしっかりした引き締まった赤が生まれる。東寄りの区画は暖かく、果実味が豊かで厚みのある赤になります。中間の区画は両者の性格を併せ持つ。
同じリオハの名を冠していても、どこの畑かで表情が変わる。ヴィンテージによる揺れも当然あります。産地名だけで味を決めつけないほうが、この土地は面白い。
料理との相性
ワインの里は、料理の里でもあります。ラ・リオハの食卓には、ワインで煮た料理や、地元の野菜を使った素朴な皿が並びます。
若い赤なら、チョリソーやサルチチョンのような腸詰め、アルボンディガスといった家庭的な料理に。熟成の進んだ赤は、熟成肉の炭火焼きや仔羊のロースト、チュレトンのような堂々とした皿を受け止めます。樽の香ばしさと薪火の香りは、同じ方向を向いている。
マンチェゴのような羊乳の熟成チーズも、レセルバ以上とよく合います。ひよこ豆の煮込みやコシードのように、時間をかけた料理とは相性が自然にそろう。
飲むときの温度はやや低めに。熟成した赤ほど、香りの立ち方がグラスの形に左右されます。何を選ぶか迷ったら、料理の重さに合わせるというペアリングの基本に立ち返るのが早い。ほかの産地の話はコラム一覧からどうぞ。