小皿がふたつ、テーブルの端に置かれます。片方は赤、もう片方は緑。真ん中には、皮が白く粉を吹いた小さなじゃがいも。

モホ(Mojo)とは、カナリア諸島で作られる、にんにくを土台にした冷たいソースのこと。オリーブオイルと酢、そこに乾燥唐辛子や香草を加えて、すり鉢で崩していきます。スペイン本土から大西洋を1000キロ以上隔てた島々の、独立した食文化の象徴です。

赤と緑、それぞれの正体。じゃがいもとの関係。そしてなぜ島でこのソースが育ったのか。順に見ていきます。

すり鉢で潰したにんにくとオイルのソース

モホとは

まず、火を使いません。

にんにく、粗塩オリーブオイル、酢。この四つが骨格です。すり鉢で潰し、乳化させながら伸ばしていく。加熱しないぶん、素材の香りがそのまま立ちます。生のにんにくの刺激、オイルの青さ、酢の輪郭。

同じくにんにくとオイルを乳化させるアリオリと、成り立ちはよく似ています。ただしアリオリが白く濃厚に仕上がるのに対して、モホはもっとゆるい。かけるものではなく、浸すもの。そういう質感です。

道具は昔ながらのすり鉢。刃で切るミキサーと違い、押しつぶすことで香りの出方が変わると言われます。ロメスコサルモレホも同じ発想で、スペインには「潰して作るソース」の系譜があります。

赤いモホと、緑のモホ

赤は、モホ・ピコン(mojo picón)。乾燥赤唐辛子とパプリカパウダー、クミンを効かせた、辛みのあるソースです。名前のpicónは「刺すような」という意味。肉に添えられることが多い。

緑は、モホ・ベルデ(mojo verde)。コリアンダーやパセリを大量に加えて、青々とした色に仕上げます。こちらは魚向き。白身魚焼いた魚の脇に置かれ、脂を切る役目を担います。

赤と緑で使い分ける。単純ですが、理にかなった分業です。香辛料の使い方を見ても、スペイン料理は少ない素材で方向性を変えるのが得意。モホもその延長にあります。

すり鉢で香辛料をすりつぶすところ

パパス・アルガダスという相棒

モホを語るなら、この一皿を外せません。

パパス・アルガダス(papas arrugadas)。小ぶりのじゃがいもを、大量の塩を溶かした水で茹で上げる料理です。水分が飛ぶまで火にかけると、皮が縮んで皺が寄り、表面に塩の結晶が白く残る。arrugadaとは「皺の寄った」という意味です。

これを、指でつまんでモホに浸す。ほくほくした身に、生にんにくの香りと酸が絡む。素朴です。素朴ですが、島の市場でも家庭でも、これが定番。

カナリア諸島は火山島で、土壌も気候も本土とは違います。カスティーリャの乾いた高原とも、緑のガリシアとも異なる条件のもとで、独自のじゃがいも品種が育ちました。ソースが土地とともに生まれる、そのわかりやすい例です。

使い方と、ワイン

モホは万能です。焼いた野菜にも、熾火で炙った肉にも合う。パンにつけるだけでも成立します。

冷蔵で数日はもちますが、生にんにくを使うので香りは日ごとに変わっていく。作りたてが最も刺激的で、時間が経つほど角が取れる。どちらが良いかは好みの問題です。

合わせる酒は、酸のあるものを。チャコリのような軽く泡立つ白は、緑のモホと魚の組み合わせによく寄り添います。赤いモホと肉なら、果実味のあるガルナッチャや、軽めのロサード。にんにくと唐辛子の押しに、しっかりした温度管理で応えたいところです。

同じスペインでも、島に渡れば皿の景色が変わる。地方ごとの違いは、カタルーニャアンダルシアの記事、あるいはコラム一覧からもたどれます。