内陸へ車を走らせると、海の景色は消えます。乾いた赤土、低い石垣、アーモンドとオリーブの樹。その合間に、背の低いぶどうの畑が現れます。観光客の視界には、あまり入らない場所です。

マヨルカ島のワインとは、地中海に浮かぶバレアレス諸島最大の島で造られるワインのこと。島の外にはほとんど出回らない品種を軸にしています。

飲む機会は多くありません。だからこそ、覚えておく価値がある。

石垣に囲まれた島のぶどう畑

マヨルカ島のワインとは

島には二つの原産地呼称があります。島の中央部に広がるビニサレムと、東側のプラ・イ・リェバン。どちらも内陸寄りで、海から少し離れた平地や緩やかな斜面に畑があります。

生産量は、スペイン全体から見ればごく小さい。長く島内で消費されてきたワインで、輸出を前提に造られてきたわけではありません。近年になって島の外へ知られはじめた、という順序です。

だから残ったものがあります。固有品種です。

島の品種

赤の主役はマント・ネグロ。この島以外ではまず見かけない黒ぶどうです。色は濃くなりすぎず、タンニンは穏やか。赤い果実とハーブを思わせる香りが立ちます。もう一つカイェットという赤品種もあり、こちらはさらに軽やかです。

白ではプレンサル・ブランやモール。柑橘に、白い花のような香りが混じります。

これらに加えて、テンプラニーリョガルナッチャ、国際品種を混ぜて仕込むことも一般的です。単一品種で押し切るより、ブレンドで骨格を整える造り方が多い。

気候は典型的な地中海性です。夏は暑く乾き、冬は穏やか。日照は十分にあります。ただし島の北西には山脈が走っていて、それが風と雨をある程度受け止める。畑の位置によって条件が変わるのは、急斜面の産地などと同じ理屈です。

味わいと選び方

全体として、力で押すワインではありません。アルコール感は中程度、酸は保たれ、香りは複雑さより素直さで勝負するタイプが多い。

赤はやや冷やして飲むと持ち味が出ます。温度を室温任せにすると、香りがぼやける。マント・ネグロの軽さは、十六度前後のほうがきれいに出ます。

熟成表記は本土と同じ枠組みで、クリアンサやレセルバの名が付くものもあります。ただし島のワインの魅力は、長期熟成よりも若いうちの香りにあることが多い。ラベルで品種名を確認して、マント・ネグロやプレンサル・ブランと書かれていれば、それは島らしい一本です。

ロサードも造られていて、夏の島の食卓にはこちらのほうが馴染むかもしれません。

料理との相性

島の料理は、地中海の性格をそのまま持っています。オリーブオイル、トマト、豚。

エンサイマーダのような甘い焼き菓子は別として、食事の皿は素朴です。ソブラサーダと呼ばれるパプリカを効かせた柔らかい腸詰めは島の名物で、これには軽めの赤がよく合います。パン・コン・トマテに塗って食べる形なら、なおさら。

焼いた野菜魚介には白を。同じ諸島のマオンチーズを合わせるのも一手で、チーズとワインは産地を揃えると収まりがよくなります。

タパスを並べる席には、島の赤を一本。強すぎないぶん、いろいろな皿に付き合えます。ペアリングの当たりを探すより、まず一本を通しで飲んでみる。島のワインは、そういう付き合い方が似合います。ほかのワインの話はコラム一覧からどうぞ。