鍋の火を弱め、すり鉢の中身をひとさじ落とします。溶けるように広がって、汁がわずかにとろむ。香りが立ちのぼり、それまでの煮込みとは違う輪郭が現れる。ほんの一手です。

ピカーダ(Picada)とは、ナッツやパン、にんにく、香草などをすり鉢で砕き、料理の仕上げに加えるカタルーニャの調味技法。「刻む(picar)」という動詞に由来します。単独の料理ではなく、煮込みを完成させるための最後の工程です。

作るのは数分。しかし、あるとないとで、皿の印象が変わります。

すり鉢で作るカタルーニャのソース

ピカーダとは

決まったレシピはありませんが、典型的な構成は次のようなものです。

炒ったアーモンドやヘーゼルナッツ。オリーブオイルで揚げ焼きにしたパン。にんにく。パセリ。これらをすり鉢で叩き、油や煮汁を少し加えてペースト状にする。

料理によっては、サフラン、シナモン、チョコレート、ビスケットなどが入ることもあります。甘い要素が入るのは意外に思えるかもしれませんが、カタルーニャ料理には甘みと塩気を混ぜる伝統があります。

これを、煮込みが仕上がる直前に加えて数分だけ火を通す。それで完成です。

三つの仕事を同時にする

ピカーダは、ひとさじで複数の役割を果たします。

ひとつめは、とろみ。砕いたパンとナッツが煮汁の水分を抱え、自然な濃度をつける。小麦粉でとろみをつける方法もありますが、こちらは味も同時に足せる点が違います。サルモレホがパンでとろみをつけるのと、原理は同じです。

ふたつめは、コク。ナッツの油分と、炒った香ばしさ。乾いた実に凝縮する滋味が、煮汁に溶け込みます。

みっつめは、香り。にんにくとパセリ、そして香辛料。長時間の煮込みでは香りが飛んでしまいますが、最後に入れれば残る。香辛料の使いどころを知る技法です。

とろみ、コク、香り。三つを一度に。これがピカーダの効率です。

ソフリートとの、対になる関係

スペイン料理、とりわけカタルーニャ料理には、二つの土台があります。

始まりがソフリート。玉ねぎをじっくり炒めて、味の基礎をつくる。終わりがピカーダ。砕いたものを加えて、味を締める。

煮込みは、この二つに挟まれています。前で厚みをつくり、後ろで輪郭をつくる。海山の幸が語るカタルーニャ料理の構造は、しばしばこの形をとります。

材料も対照的です。ソフリートは野菜と油を火にかけて溶かしていく。ピカーダは固形物を砕いて、あえて質感を残す。溶かすことと、砕くこと。

ロメスコとの違い

すり鉢でナッツを砕くという点で、ロメスコソースとよく似ています。混同されることもある。

違いは、使い方です。ロメスコは独立したソースで、焼いた野菜や魚に添えて、それ自体を味わう。ピカーダは料理に溶け込ませて、姿を消す。

材料もロメスコは乾燥唐辛子やトマトを主体にしますが、ピカーダはもっと自由で、料理ごとに構成を変えます。

アリオリがにんにくと油の乳化で成立するのに対し、ピカーダは乳化を目指しません。粒が残っていていい。むしろ、その粒が煮汁のなかで存在感を作る。

どんな料理に入るのか

魚介の煮込みには、ほぼ必ず入ります。イカや白身魚、ムール貝を使った煮込み。マリスコスを主体にした鍋料理。

肉の煮込みにも使われます。アルボンディガス、鶏や兎の煮込み、ラボ・デ・トロのような時間をかける料理。

米料理でも、アロス・ネグロや汁気のある米料理に加えることがあります。カルドの旨みに、ナッツのコクを重ねる。

家庭では、余ったパンの行き先としても機能します。硬いパンを菓子に変えるトリハスすくう道具になるピコス。パンを捨てない工夫の、もうひとつの形です。

ワインとの相性

ナッツのコクが加わった煮込みには、それに応える厚みのある酒を。

ガルナッチャの丸みは、アーモンドの甘い香りと同じ方向を向きます。カタルーニャに寄せるならプリオラートの力強い赤も選択肢ですが、料理が魚介なら重すぎることも。

魚介の煮込みには、リアス・バイシャスのような酸のある白か、ロサード温度を整えれば、ナッツの油分をきれいに流してくれます。

最後のひとさじで、料理が変わる。ほかの技法の話は、ソフリートコラム一覧からどうぞ。