厨房の隅で、平たい鍋が静かに音を立てています。中身は刻んだ玉ねぎ。強い火ではありません。ゆっくり、ゆっくり、色が変わるのを待っている。三十分、ときにはもっと。

ソフリート(Sofrito)とは、玉ねぎを中心とした香味野菜をオリーブオイルで弱火にかけ、時間をかけて炒め煮にしたもの。スペイン料理の多くが、ここから始まります。それ自体が皿に出ることはほとんどありません。しかし、これがなければ味が決まらない。

土台という言葉が、これほど正確に当てはまる工程もありません。

鍋で煮込む料理

ソフリートとは

基本の材料は、玉ねぎとオリーブオイル。ここに、にんにく、トマト、ピーマンやパプリカが加わることが多い。

作り方は、材料を細かく刻み、弱火でじっくり炒めること。それだけです。ただし、この「じっくり」が曲者で、玉ねぎがしっかり色づき、水分が抜けて量が半分以下になるまで火を入れます。

急いではいけません。強火で炒めれば、表面だけが焦げて中の甘みが出ない。焦らないこと、それが技術のすべてです。

名前は「軽く炒める(sofreír)」に由来しますが、実際にやっていることは炒めるというより、油で煮ることに近い。

なぜ時間をかけるのか

玉ねぎには、辛味成分と糖分の両方が含まれています。

生の玉ねぎが辛いのは、切ったときに生じる硫黄化合物のため。これは加熱によって分解され、刺激が消えていきます。同時に、細胞が壊れて水分が抜けると、もともとあった糖分が濃縮される。

さらに、糖とアミノ酸が反応して褐色の物質と香気成分が生まれます。これが色づきの正体であり、コクの正体でもある。薪火焼きの香りが生まれる化学や、黒にんにくが甘くなる仕組みと同じ種類の変化です。

辛味が消え、甘みが出て、香りが生まれる。三つの変化が同時に起きるので、時間が要る。省略すれば、その三つが全部足りない料理になります。

どの料理に入っているのか

答えは、ほとんどの料理に、です。

パエリアは、米を入れる前に必ずソフリートを作ります。パエリェラという鍋の底で野菜を炒め、そこに米とカルドを加える。米が吸うのは出汁だけではなく、この土台の味も含まれる。元祖パエリアアロス・ネグロも、フィデウアも同じ手順です。

煮込みもそう。アルボンディガスのトマトソース、ラボ・デ・トロの煮汁、カタルーニャの煮込み。土台を作ってから、主材料を加える。

ファバダコシードのような豆料理では、腸詰めの脂が土台の役割を兼ねることもありますが、玉ねぎを炒める工程が入る作り方も多い。

つまり、スペインの鍋料理を辿っていくと、たいていここに行き着きます。

地域と作り手による違い

決まった配合はありません。家庭ごと、店ごと、地方ごとに違います。

トマトを入れるか入れないか。パプリカを加えるか。ピメントンを入れて色と燻香を足すか。カタルーニャでは玉ねぎを特に長く炒めて濃い茶色にする傾向があると言われ、カスティーリャの素朴な食卓ではもっと簡素な構成になることもある。

刻み方も違う。細かいみじん切りにすれば料理に溶けて姿が消え、粗く切れば食感が残る。どちらを選ぶかで、仕上がりの印象が変わります。

作り置きして冷凍しておく家庭も多い。土台さえあれば、そこから何にでも展開できるからです。煮込みの仕上げに加えるピカーダが「最後の一手」なら、ソフリートは「最初の一手」。スペイン料理は、この二つに挟まれています。

料理との相性、そしてワイン

ソフリートを効かせた料理は、甘みとコクが厚くなります。だから合わせる酒にも、それなりの厚みが要る。

トマトを含む赤いソフリートの煮込みなら、テンプラニーリョ主体の赤。樽で寝かせたクリアンサなら、甘い香りが玉ねぎの甘みと重なります。より濃い料理にはリベラ・デル・ドゥエロガルナッチャを。

魚介の米料理なら、白でも構いません。リアス・バイシャスの酸が、油の重さを切ってくれる。温度で表情が変わるので、料理の温かさに合わせて整えたい。

姿は見えないが、味の中心にいる。ほかの技法や調味の話は、ピカーダコラム一覧からどうぞ。