名前をそのまま訳すと「揚げた牛乳」。液体を揚げる、という無茶な話に聞こえます。実際には、ひと手間はさんでいる。牛乳を、いったん固めるのです。

レチェ・フリータ(Leche Frita)とは、牛乳をデンプンで固めて冷やし、四角く切って衣をつけ、油で揚げた菓子。表面はカリッと、中は温かいクリーム。スペイン北部を中心に、家庭で作られてきた素朴なデザートです。

構造に見覚えがある方もいるでしょう。そう、あれの甘い版です。

スペインの揚げ菓子

レチェ・フリータとは

作り方は二段階です。

まず、牛乳に砂糖とコーンスターチ(または小麦粉)を加え、火にかけて練り上げる。レモンの皮やシナモンスティックで香りをつけることが多い。とろみがついたら平たいバットに流し、冷蔵庫で冷やし固める。

固まったら、四角く切り分ける。小麦粉と卵をまとわせ、油で揚げる。仕上げに砂糖とシナモンをふって、できあがり。

とろけるものを、いったん固めて、また熱でとろかす。この手順は、クロケッタとまったく同じです。あちらはベシャメルに具材のうまみを移し、こちらは牛乳に砂糖を溶かす。塩の道と甘い道に分かれただけで、技術の骨格は共通しています。

デンプンが働く仕組み

牛乳が固まるのは、デンプンのおかげです。

デンプンは水と一緒に加熱されると、粒が膨らんで糊状になります。これを糊化と呼びます。冷えると再び組織が締まり、ゲル状に固まる。だから、加熱と冷却の両方が必要になる。

固まり具合の調整が、この菓子の勘所です。デンプンが多すぎると、揚げても中がとろけず、餅のような食感になる。少なすぎると、揚げている最中に崩れて流れ出す。ちょうどよい配合の幅は、意外に狭い。

同じ「液体を固めて食べる」でも、フランは卵のタンパク質を熱で凝固させています。デンプンで固めるか、卵で固めるか。手段が違えば、食感も違う。クレマ・カタラーナは卵とデンプンの両方を使い、また別の質感に着地します。

北スペインの菓子として

レチェ・フリータは、スペイン北部でよく食べられる菓子とされます。

理由として考えやすいのは、牛乳です。乾いた中央部が羊や山羊の土地であるのに対し、大西洋に面した北部は牧草が育ち、牛が飼える。マオンが牛乳製のチーズであるのと同じ理屈で、酪農のある土地には牛乳を使う菓子が生まれます。

アストゥリアスの冬を煮込むファバダ素材で語るガリシアといった北の食文化は、乾いたカスティーリャの食卓とは違う素材の層を持っている。レチェ・フリータは、その層から出てきた菓子です。

家庭菓子ですから、店で見かける機会はさほど多くありません。バルの締めくくりに出るとすれば、家庭的な料理を出す店でしょう。

揚げ方という関門

この菓子の難所は、揚げる工程に集中しています。

中身はすでに火が通っていて、しかも柔らかい。だから目的は「衣を色づける」ことだけ。高めの温度で、短く。長く揚げれば中身が緩んで流れ出します。焼き加減を一瞬で見極めるという感覚が、揚げ物にも要る。

油はオリーブオイルを使うのがスペイン流。後味が軽く、青い香りがわずかに残ります。チュロストリハスも同じ油。揚げ菓子とオリーブオイルの組み合わせは、この国では標準です。

仕上げの砂糖とシナモンも、トリハスと共通する定型。熱いうちにまぶすと、表面に張りつきます。

合わせる一杯

温かい揚げ菓子には、温かい飲み物か、冷たく甘い酒。

コーヒーは間違いありません。軽い朝食のあと、あるいは午後の間食として、濃いコーヒーと一緒に。ホットチョコレートに浸す人もいます。

酒なら、甘口のシェリーやモスカテル。牛乳の穏やかな甘さに、酒の甘さを重ねる。樽の香りを持つクリアンサを少量というのも、シナモンの方向と噛み合います。

さっぱり流したいなら、チャコリのような酸のある白。温度をしっかり下げて出すと、油の余韻を切ってくれます。グラスの形で香りの立ち方も変わるので、菓子に合わせるなら小ぶりのものを。

液体を、揚げる。名前の突飛さと裏腹に、理屈はきちんと通っています。ほかの菓子や技法の話は、ポストレの流儀コラム一覧からどうぞ。