夏のバル。ガラスケースの中に、白い山がひとつ。氷の上に置かれて、冷たいまま客を待っています。頼むと、スプーンでこんもり取り分けられて出てくる。
エンサラディージャ(Ensaladilla)とは、茹でたじゃがいもとツナ、野菜をマヨネーズで和えたスペインのポテトサラダ。正式には「エンサラディージャ・ルサ」、つまり「小さなロシア風サラダ」と呼ばれます。
冷たくて、しょっぱくて、油っぽい。暑い季節にちょうどいい一皿です。

エンサラディージャとは
基本の材料は、四つ。じゃがいも、ツナ、マヨネーズ、そして人参やグリーンピースといった野菜です。
じゃがいもは茹でて角切り。ツナは缶詰のものを使うのが普通で、オイル漬けが好まれます。これらをマヨネーズで和え、冷やして出す。オリーブを飾ったり、白アスパラガスの瓶詰めを添えたりする店もあります。
火を使わずに完成するわけではありませんが、出すときは完全に冷たい。この点が重要です。火を使わず仕上げるガスパチョやサルモレホと同じく、冷たいまま出すという知恵の一員。
パンに乗せてピンチョとして出す店も少なくありません。
名前の由来
「ルサ」はロシアを意味します。なぜロシアなのか。
一般には、19世紀のロシアで考案されたとされるサラダがヨーロッパ各地に広まり、それぞれの土地で形を変えた、という説明がなされます。フランスやイタリア、東欧にも似た料理があり、スペインではツナを加える形で定着しました。
ただし細部の来歴には諸説あり、確かなことは言いにくい。はっきりしているのは、外来の料理がスペインの食材で作り替えられたということです。
こうした受容と変形は珍しくありません。エンパナーダが世界中で形を変えたように、スペインと南米の食が海を越えてつながったように。料理は移動して、その土地のものになる。隣国ポルトガルとの違いも、同じ現象の別の側面です。
日本のポテトサラダとの違い
似ています。けれど、いくつか違いがあります。
まず、ツナが必ず入ること。スペインではツナのオイル漬けが日常の常備品で、これが味の中心になります。保存食を使いこなす文化の一環と言えるかもしれません。
次に、じゃがいもを潰さないこと。日本ではマッシュしてなめらかにすることが多いのに対し、スペインでは角切りのまま和える。食感が残ります。
そして、マヨネーズの性格。スペインのマヨネーズはオリーブオイルで作られることが多く、風味が強い。アリオリに近い、ニンニクを効かせたものを使う店もあります。
きゅうりが入らないのも特徴的です。代わりに人参とグリーンピース、ときにゆで卵。

作り方の要点
じゃがいもは、茹ですぎないこと。角切りにしたときに崩れる程度まで火を入れると、和えたときにマッシュ状になってしまいます。
茹でたら、熱いうちに軽く塩と酢、あるいはオリーブオイルをまわしかける。この下味が効きます。冷めてから和えるより、味の入り方が違う。
マヨネーズは、和える直前に。混ぜすぎない。じゃがいもの角を残すつもりで、さっくり合わせます。
そして、冷やす時間を取る。作りたてより、少し置いたほうが馴染む。翌日のほうが旨い煮込みと同じ理屈です。ただし冷やしすぎると油が固まって重くなるので、出す少し前に冷蔵庫から出す店もあります。
仕上げの塩は控えめに。ツナとマヨネーズですでに塩気があります。
ワインとの相性
マヨネーズの油と、ツナの塩気。切れのある白が正解です。
チャコリの軽い発泡と鋭い酸は、この手の油っぽい冷菜をきれいに流してくれる。高い位置から注ぐ所作も含めて、バルの空気によく合います。
リアス・バイシャスのアルバリーニョも好相性。海の魚介を思わせるミネラル感が、ツナと同じ方向を向きます。