板のように硬い。灰色で、白い塩をまとっていて、どう見ても食べ物には見えない。それが乾物屋に並ぶバカラオの姿です。

ところがこれを二日がかりで水に戻し、火を入れる。すると、生の鱈では絶対に届かない濃さの一皿になります。

バカラオ(Bacalao)とは、鱈(たら)を塩漬けにしてから乾燥させ、保存性を高めた伝統食材のこと。スペインをはじめ地中海沿岸諸国で長く親しまれてきました。凝縮したうまみと弾力のある食感が持ち味で、家庭料理からレストランの一皿まで、出番は広い。

塩漬けにされ並べられた干し魚

バカラオとは(定義)

つくり方は単純です。鱈の身に大量のをすり込んで水分を抜き、乾燥させる。それだけで長期保存が可能になる。

生まれた理由も単純でした。冷蔵も冷凍もない時代、海のない内陸部まで魚を届けたかった。生ハム腸詰と同じ、必要から出た発明です。スペイン語で単に「バカラオ」といえば、生の鱈ではなくこの塩鱈を指すのが一般的——それだけこの形が定着している、ということでもあります。

強い塩気と、乾燥によって凝縮した旨味成分。調理の前には水で塩抜き(もどし)をします。もどし加減と火入れで食感が大きく変わるので、経験と技術が要る食材です。

歴史・由来

塩漬けの鱈が作られはじめたのは9世紀頃。ノルウェーやアイスランドなど、北大西洋の漁民の仕事でした。それが交易品として南欧へ運ばれるようになります。

冷たい北の海で獲れる鱈と、地中海沿岸で豊富に採れる塩。この二つが出会って、遠く離れた地域を結ぶ保存食が生まれた。素材はどちらも一方の土地にしかないのに、完成品はその両方を必要としている。

スペインではバスク地方カタルーニャ地方でとくに重用され、大航海時代には船員の貴重なタンパク源として海を渡りました。そして現代。冷蔵技術は行き渡ったのに、あえてバカラオを選ぶ料理人や家庭は少なくありません。便利さのために使われていた食材が、味のために選ばれるようになった。

もどし方と味わいの特徴

調理の第一歩は塩抜きです。ここを飛ばす道はありません。

冷水に浸し、水を数回替えながら1〜2日ほどかけてゆっくり抜いていく。急がないこと。 早く済ませようとすると身が硬くなり、旨味まで一緒に流れ出てしまいます。時間をかけることが、そのまま味の条件になっています。

もどし終えたバカラオには、生の鱈にはない凝縮した旨味と、ほろほろとほどける食感があります。そして皮目のゼラチン質。これが料理にコクを与える、隠れた主役です。

塩蔵され保存される鱈の身

代表的なバカラオ料理

主役に据えた料理は数多くあります。

バスク地方の「バカラオ・アル・ピルピル」は、その皮から出るゼラチン質とオリーブオイルを乳化させ、とろりとしたソースに仕立てる名物。卵を使わずに乳化させるという点では、アリオリと発想が通じています。

カタルーニャなら、手で裂いてトマトや玉ねぎと和えるエスケイシャーダパン・コン・トマテに載せて食べる手もあります。

そしてコロッケ。クロケッタ(スペインのコロッケ)のバカラオ入りは、じゃがいもや生ハムのものと並ぶバルの人気メニューです。フリッター状に揚げた「ソルダディトス・デ・パビア」も、カウンターでよく見かけるつまみです。

ワイン・他の料理との相性

オリーブオイルのコクと塩気を持つ料理には、酸のしっかりした白。ガリシアのリアス・バイシャス、バスクのチャコリ——キレのある一杯が持ち味を立たせます。食前酒としてスペインのベルモットを軽く合わせるのも良い入り方です。

火の話をすれば、薪料理の技法でバカラオを炙り、香ばしさを重ねる仕立ても見られます。

塩と乾燥という、ごく素朴な保存の知恵。そこから出発した食材が、時間をかけた分だけの独自のうまみを持つようになった。塩が鱈を変え、時間がごちそうに変えたわけです。

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