皿に盛られた米が、ゆっくりと広がっていきます。傾ければ流れる。けれど、スープのように走りはしない。スプーンですくうと、米粒同士が薄い膜でつながっているような、独特の粘りがある。

アロス・メロソ(Arroz meloso)とは、汁気を残しつつ、とろみを持たせて仕上げるスペインの米料理のこと。「メロソ」は「蜂蜜のような」という意味の言葉で、その質感がそのまま名前になっています。

汁を飛ばし切るパエリアと、スープを残すアロス・カルドソ。この二つのあいだにあるのがメロソです。中間であること。それが、実はいちばん難しい。

仕上がった米料理の鍋

アロス・メロソとは

スペインの米料理を水分で三分割したとき、真ん中に位置します。

セコは、水分を完全に飛ばし、米粒が独立してぱらりと立つ状態。カルドソは、米が汁に沈み、スプーンですくえばスープがついてくる状態。そしてメロソは、汁が残ってはいるが、それが米と一体化してとろりとまとまっている状態。

水分量の目安は、米に対して三倍から三倍半ほど。カルドソより少なく、セコより多い。ただし、量だけの問題ではありません。同じ水分量でも、扱い方次第でメロソにならないことがあります。

見分け方として、皿に盛って数秒後の様子がよく使われます。米が動かなければセコ、汁が広がればカルドソ、ゆっくり流れて止まればメロソ。米料理が特別な位置を占めるスペインでは、この差を客も料理人も明確に区別しています。

とろみは、どこから来るのか

とろみ剤も、クリームも使いません。正体は、米自身のデンプンです。

米の外側には、アミロペクチンという粘りの元になるデンプンがあります。加熱中に米が動き、粒同士がこすれ合うと、この表面のデンプンが少しずつ煮汁に溶け出す。それが煮汁に粘度を与え、あのとろみをつくります。

つまり、とろみを出すには米を動かす必要がある。ここが、パエリアとの決定的な違いです。パエリアでは、米を入れたら基本的に触りません。動かせばデンプンが出て、粒が立たなくなるからです。メロソでは、逆にそれを狙う。

だから使う鍋も変わります。パエリェラのような浅く広い鍋では、米が薄く広がって動きません。メロソには、ある程度の深さを持つ鍋か、素焼きのカスエラを使い、対流が起きる状態をつくります。道具が料理を決めるという原則が、ここでも働いています。

火加減も要点です。強すぎれば汁が飛びすぎ、弱すぎればデンプンが出ない。沸々と対流が続く程度を保ちながら、米の状態を見て出汁を少しずつ足していく。この足し方が、リゾットの作り方と重なります。

リゾットとは、何が違うのか

似ています。しかし、同じではありません。

リゾットは、バターやチーズを加えて乳化させ、とろみと濃厚さを同時につくる。仕上げに「マンテカーレ」と呼ばれる工程を踏み、脂で全体をまとめます。米も、粘りの強いカルナローリなどを使う。

アロス・メロソは、乳製品を使わないのが基本です。とろみは米のデンプンと、オリーブオイル、そして出汁の持つゼラチン質から生まれる。だから味わいは、より澄んでいます。魚介の出汁を使えば、その香りがそのまま前に出る。

米の品種も違います。スペインではボンバ米などの、汁をよく吸って粒が崩れにくい品種が好まれます。吸水率が高く、味を吸い込む力が強い。

そして味の土台は、やはりソフリート。玉ねぎとトマトをじっくり炒めた基礎に、サフランピメントンを重ねる。イカ墨を使えば黒い一皿になり、魚介を加えれば海の味になる。米を使わないフィデウアにも、同じ発想でとろみを持たせる作り方があります。

ワインとの相性

とろみのある料理は、口の中に残る時間が長くなります。だから、それを流す酸が要ります。

魚介のメロソなら、リアス・バイシャスの白が第一候補。柑橘の酸が、粘度のある口当たりを軽くしてくれます。チャコリの微発泡も、同じ役割を果たす。

トマトやパプリカを効かせたものには、ロサード。肉やきのこを使った濃い仕立てなら、軽めのガルナッチャや、樽の穏やかなテンプラニーリョも合います。

温度は低めに整えるのがこつです。熱くとろみのある料理に、冷たく酸のある液体。この対比が、次のひと口を呼びます。

乾いてもなく、汁でもない。定義しにくい状態を目指すからこそ、作り手の判断がそのまま出る料理です。ほかの米料理の話は、コラム一覧からどうぞ。