料理人が炉の前で手を止めます。網の高さで手のひらをかざし、口の中で秒を数えている。二つ、三つ。そこで手を引き、薪を一本、火床の端へ寄せる。

熾火の温度管理とは、薪火料理においてもっとも基本で、もっとも難しい仕事のこと。ガスのつまみも、オーブンの設定温度もありません。あるのは、燃え尽きかけた薪の塊と、そこから立ちのぼる熱だけ。

どうやって温度を知るのか。どうやって変えるのか。食材ごとに何が違うのか。炉の前で起きていることを見ていきます。

燃え落ちて灰をかぶった熾火

熾火とは何か

まず、炎ではありません。

薪を燃やすと、最初は勢いよく炎が上がります。この段階では煤が多く、温度も安定しない。炎が落ち着き、薪が赤く光る炭の塊になったところ——これが熾火(ブラサ、brasas)です。

炎で焼くか、熾火で焼くかは、まったく別の調理になります。炎は接触した表面を局所的に焦がす。熾火は輻射熱を面で送る。だから薪火料理では、炎ではなく熾火の状態をつくることに時間をかけます。

火を熾すのに30分、料理を焼くのに数分。時間配分としては、そういう仕事です。

温度を読む方法

計器はほとんど使いません。かわりに、いくつかの手がかりがあります。

。熾火が明るいオレンジに光っているなら高温。表面が白い灰をかぶり、その隙間から赤みが透けている状態は、やや落ち着いた中火。灰が厚く、赤みがほとんど見えなければ弱火です。

手をかざす秒数。網の高さに手のひらを置き、何秒耐えられるかを数える。二秒程度で引っ込めたくなるなら強火。四、五秒なら中火。もっと長く置けるなら弱火。個人差はありますが、同じ人が同じ基準で測るぶんには、十分に機能する物差しです。

。食材を置いた瞬間の音でも判断します。強い音が立つなら表面温度が高い。静かなら足りない。

原始的に見えますが、要は温度そのものより「今この食材に、どれだけの熱が入っているか」を知りたいわけです。数字より、経験で校正された感覚のほうが速いことがあります。

灰をまとって赤く光る熾火

温度を変える三つの手

読んだあとは、操作します。方法は主に三つ。

ひとつ目は、距離パリージャの網を上下させる。近づければ強く、離せば弱い。輻射熱は距離が離れるほど急速に弱まるので、数センチの上下でもはっきり効きます。

ふたつ目は、熾火の厚み。火床の熾火を寄せて厚く積めば火力が上がり、掻き分けて薄くすれば下がる。炉のなかに強い区画と弱い区画をつくっておき、食材を移動させることで火加減を変える。これが実際には最もよく使われる手です。

三つ目は、薪を足す。ただし新しい薪を入れると炎と煙が出るので、焼いている最中にはやりにくい。樹種によって火力も香りも変わるため、いつ何を足すかは組み立ての一部になります。

食材ごとの読み分け

厚い骨付き肉は、強めの火で表面を焼き締めてから、弱い区画へ移して中心まで温める。二段階です。熟成させた牛肉は水分が抜けているぶん焦げやすく、焼き加減の見極めもシビアになります。

薄くて脂の細かいセクレトや、厚みのあるプレサ。同じイベリコ豚でも、部位ごとに扱いが違う

魚を丸ごと焼くなら、皮を焦がさない中火が基本。小イカは逆に、短時間の強火で一気に。野菜は水分を抜きたいので、やや弱めで長く。パンセタのように脂の多いものは、落ちた脂が燃え上がらないよう火床から少しずらす。

焼き終えたら、休ませる。火から下ろしても、内部の温度は数度上がり続けます。それを見越して引き上げる。ここまで含めて温度管理です。

つまみのない火。だから面白い、という料理人もいます。季節で変わるコースも、冬の薪料理も、根っこにあるのはこの読みです。火の話はコラム一覧にもまとめています。