真夏の畑。日陰らしい日陰もない場所で、木の枝に丸い壺が吊るされています。表面はうっすら湿っている。持ち上げると、思いのほか冷たい。

ボティホ(Botijo)とは、素焼きの土でできた水差しのこと。丸い胴に、水を注ぐ口と、飲むための細い注ぎ口がついています。冷蔵庫のない時代、スペインの乾いた土地で水を冷たく保つために使われてきました。

なぜ冷えるのか。どんな気候で生きる道具なのか。そして今も残っているのはなぜか。順に見ていきます。

乾いた斜面に立つスペイン内陸の集落

ボティホとは

形に特徴があります。胴は丸く膨らみ、上部に持ち手。そこから二本、突起が出ている。太いほうが給水口、細いほうが飲み口です。

素材は、釉薬をかけていない素焼き。ここが決定的です。カスエラのように内側を釉薬で覆ってしまうと、この道具は機能しません。土に微細な穴が残っていることが、冷却の前提だからです。

大きさは数リットル程度のものが一般的。畑仕事に持って出る、家の風通しのいい場所に置く。そうした日常の道具でした。

気化熱という仕組み

冷える理屈は、それほど複雑ではありません。

素焼きの壁は多孔質で、内側の水がごくわずかに外へしみ出します。表面まで到達した水は、乾いた空気に触れて蒸発する。液体が気体に変わるとき、周囲から熱を奪う。これが気化熱です。

奪われた熱の分だけ、容器と中の水の温度が下がる。しみ出した水が蒸発し続けるかぎり、冷却も続きます。汗をかいた肌に風が当たると涼しいのと、同じ現象です。

条件があります。空気が乾いていること。湿度が高いと蒸発が進まず、冷えません。それから、風があること。風は蒸発を促します。だからボティホは、日陰の風通しのいい場所に吊るす。日向に置けば直射日光で温まってしまうので、そこは間違えられない。

乾いた大地に広がるスペイン内陸の村

乾いた土地の道具

つまりこれは、気候に合わせて生まれた道具です。

カスティーリャの高原アンダルシアの内陸は、夏の日中に気温が上がり、空気は乾く。この条件で、ボティホは最もよく働きます。逆に大西洋岸のガリシアのように湿度の高い地域では、効きが鈍い。

同じ気候が、食のかたちも決めてきました。火を使わずに済ませるガスパチョ、パンとオリーブオイルを濃く合わせたサルモレホ灼熱の夏に生まれた冷たい料理と、この水差しは同じ発想から出ています。暑さに抗うのではなく、乗り切る道具立て。

シエスタの習慣も、この文脈の一部です。日中の一番暑い時間を避け、食事の時間を後ろにずらす。生活全体が、気温に合わせて組み立てられていました。

飲み方と、今

飲み方には作法があります。

細い注ぎ口に唇をつけず、少し離した位置から水を口へ落とす。ア・ガジェテ(a gallete)と呼ばれる飲み方です。複数人で回し飲みするための衛生的な工夫であり、同時に技術でもある。慣れないと、服を濡らします。

冷蔵庫が普及した今、実用品としての出番は減りました。それでもロメリアのような野外の祝祭や、市場の土産物、地方の陶器工房では今も作られています。実用と民芸のあいだに残った道具。

電気を使わず、部品もなく、壊れたら土に還る。合理性という点では、すり鉢土鍋と同じ系譜にあります。土地の条件を読み、そこに合った道具をつくる。スペインの食卓を支えてきたのは、そういう積み重ねです。暮らしと食の話は、コラム一覧からもご覧いただけます。