「何度で焼いているんですか」と聞かれることがあります。

正直に答えるなら、わかりません。薪火に温度計はついていないし、つまみもない。それでも毎日、同じ水準の皿を出す必要があります。

では何を見ているのか。今日はその話をします。

炎の色を読む

薪の火は、燃える段階によって色が変わります。

着火直後は赤みの強い炎が高く上がる。ここはまだ使えません。煤(すす)が出るうえ、温度も安定していないからです。この段階の火に肉を置くと、表面だけ黒くなって中は冷たいままになります。

しばらく待つと炎が落ち着き、薪の表面が白い灰をまとって、内側が橙色に光り始める。これが**熾火(おきび)**です。ここからが調理の時間。灰が均一にかぶった熾火は、輻射熱が安定していて、じんわりと火を通します。

さらに時間が経つと、熾火は力を失っていく。同じように見えても、放っている熱は落ちています。この見極めが難しく、判断を誤ると火の通りが足りなくなります。

だから見ているのは温度ではなく、火が今どの段階にいるかです。

燃える薪と炎

音と、手のひら

視覚以外の情報も使います。

音。 薪が爆ぜる音が多いときは、まだ水分が抜けきっていない証拠。脂が落ちて立てる音の間隔は、火の入り具合を教えてくれます。静かすぎるのも、激しすぎるのも、どちらも合図です。

手のひらの熱。 焼き網の上に手をかざし、何秒耐えられるかで熱量を測る。原始的ですが、確実です。温度計で測った数値より、この感覚のほうが素材との距離を含めて判断できます。

素材の表情。 表面の乾き方、脂の滲み方、縮み方。肉は焼かれながら状態を教えてくれるので、それを読み落とさないこと。

火加減とは、距離のこと

薪火では、火力そのものを細かく上下できません。つまみがないからです。

その代わりに調整するのが、距離です。

強く当てたければ熾火に近づけ、穏やかにしたければ遠ざける。網の高さを変え、置く位置をずらし、熾火を寄せたり散らしたりする。この操作で、事実上の火加減を作っていきます。

そして忘れてはならないのが、火から外す時間です。焼き続けるだけが仕事ではありません。強い熱を当てたら、火の届かない場所で休ませる。この往復で中心まで熱を届けます。熟成肉部位ごとに性質の違う肉ほど、この休ませ方が仕上がりを分けます。

薪の種類が、香りを決める

薪は燃料であると同時に、調味料でもあります。

樹種によって、燃え方も香りも違う。堅い木はゆっくり長く燃え、熾火が安定する。香りの立ち方も樹種ごとに個性があり、素材との相性が生まれます。

燻香は後から足せません。焼いている最中に、煙が素材の表面に薄く乗る——その一度きりの現象です。だから何の薪をどの段階で使うかは、味の設計そのものになります。

乾燥の具合も重要です。湿った薪は煙が多く、香りが重くなりすぎる。十分に乾いた薪でなければ、澄んだ香りにはなりません。

道具は、少なくていい

意外に思われるかもしれませんが、特殊な道具はほとんど使いません。

火床と網、炭ばさみ、そして手。これで足りてしまいます。器具を増やすほど火との距離が遠くなり、判断が鈍る。薪火を選び続ける理由は、この直接性にもあります。

道具が少ないぶん、頼れるのは経験だけです。毎日火をおこし、毎日読み違えないよう努める。その積み重ねしかありません。

芦屋・苦楽園のカウンター越しに、その作業をご覧いただけます。