網の上に置かれた瞬間、その肉だけが音の立ち方が違います。ジュッという派手な音がしない。落ちる脂が少ないからです。
ソロミージョ(Solomillo)とは、スペイン語で牛や豚のヒレ肉を指す言葉。背骨の内側に沿って走る細長い筋肉で、ほとんど運動に使われないため、きめが細かく、驚くほど柔らかい部位です。スペインのレストランでは、牛の「ソロミージョ・デ・テルネラ」、豚の「ソロミージョ・デ・セルド」として、どちらもよく供されます。
柔らかい。しかし、脂がない。この二つが同居しているせいで、火入れの難易度は一気に上がります。部位としての成り立ちから、焼き方の勘所、そして合わせる一杯までを辿ります。

ソロミージョとは
腰椎の内側、腎臓のあたりに寄り添うように付いている、細長い円錐形の筋肉。一頭からわずか二本しか取れません。
この位置がすべてを説明します。体を支えることも、走ることにも使われない。だから筋繊維は細く、結合組織もほとんど発達しない。噛む力をほとんど必要としない柔らかさは、そこから来ています。
一方で、霜降りが細かく入る部位とは対照的に、ソロミージョには脂がほとんど入りません。表面に薄い脂が付いていることはあっても、赤身の内部は素直な赤一色。同じ牛でも、部位ごとに焼き方を変える理由が、ここに端的に現れています。
脂がないという弱点
脂は、肉にとって保険のようなものです。
加熱すると溶け出し、繊維のあいだを潤し、多少焼きすぎても口の中で乾きを感じさせない。骨付きの大きな塊が多少ラフに焼いても旨いのは、脂と骨が守ってくれるからです。
ソロミージョには、その保険がありません。中心温度が数度上がるだけで、繊維から水分が抜け、あの柔らかさが一気にぼそつきに変わる。柔らかいはずの部位が、いちばん硬く感じられる瞬間があるのです。守るものが少ない肉ほど、火は正直に出ます。
だから料理人は、しばしばこの肉にベーコンを巻いたり、パンセタで覆ったりします。足りない脂を、外から借りる。理にかなった知恵です。
薪火での焼き方
答えははっきりしています。表面は強く、中心は控えめに。
まず、しっかり立った熾火の上で全面を焼き固めます。ここで香ばしい層をつくり、薪の煙の香りをまとわせる。この工程を弱火で長く引っぱると、外側が乾く前に中まで火が通ってしまいます。
そのあとは火から離した位置へ移し、余熱でゆっくり中心へ熱を送る。中心がほんのり温かい、ミディアムレアからミディアムの手前。焼き加減の見極めは、この部位でこそ試されます。
そして、休ませる。焼き上がりの半分ほどの時間、温かい場所に置いておく。断面を切ったとき肉汁が流れ出さないのは、この数分があるからです。味付けは仕上げの塩を粗く振る程度で十分。
牛と豚では狙いも変わります。牛はレア寄りに、豚はしっかり火を通しながらも、中心にわずかな桜色を残すあたり。熟成を経た肉であれば、その香りを飛ばさないよう、なおさら短く仕上げます。
ワインとの相性
脂が少ないぶん、渋みの強すぎる赤はぶつかります。
合わせやすいのは、果実味がまろやかで、タンニンが角ばっていないもの。テンプラニーリョを主体にした赤や、樽の効いたクリアンサあたりが素直に寄り添います。もう少し厚みが欲しければ、リベラ・デル・ドゥエロの落ち着いた一本を。
赤身の香りは繊細です。抜栓してすぐの荒い状態より、少し開いてからのほうが調和します。提供温度も気持ち低めに整えると、後口が澄んで感じられます。
柔らかさに驚く肉ではなく、火加減の正確さに驚く肉。当店でも薪火で一枚ずつ加減を見ながら焼いています。ほかの部位や焼き方の話は、コラム一覧からどうぞ。