大皿の上に、湯気の立つ豚肉が山盛りに積まれています。その脇には、青々とした菜っ葉と、丸ごと茹でたじゃがいも。上から赤いパプリカの粉とオリーブオイルが回しかけられ、テーブルの真ん中に置かれます。取り分けるための皿は、あとから回ってくる。
ラコン(Lacón)とは、豚の前脚を塩漬けにし、塩抜きしてから茹で上げる、スペイン北西部ガリシア地方の伝統料理のこと。同じ豚の脚でも、後脚を生ハムに仕立てるのに対し、前脚はこうして茹でて食べる道を選びました。
なぜ前脚なのか。生ハムと何が違うのか。そして、なぜ祭りの日に食べられるのか。ひとつずつ見ていきます。

ラコンとは
ラコンは、豚の前脚、肩から肘にかけての部分を指します。
ここを粗塩に埋め、数週間から一か月ほど漬け込む。そのあと風通しのよい場所で乾かします。この段階までは生ハムと同じ道のりです。分かれ道は、そのあと。
生ハムは何年もかけて熟成させ、生のまま薄く切って食べます。ラコンは違います。使う前に何度も水を替えて塩を抜き、大鍋で数時間茹でる。柔らかく、しっとりと、厚めに切って熱いまま供される。同じ塩漬けの技術から、まったく違う食べ物が生まれています。
前脚を選ぶ理由も明快です。後脚に比べて筋肉が多く、脂の入り方も違うため、長期熟成より加熱に向いている。適材適所という考え方が、そのまま部位の使い分けになっています。
ラコン・ガジェゴには原産地呼称が与えられており、産地と製法が定められています。原産地呼称という制度がワインだけのものではないことが、ここからも分かります。
ラコン・コン・グレロス
ガリシアでこの料理を頼むと、たいてい「グレロス」がついてきます。
グレロスとは、カブの若い葉と茎のこと。ほろ苦く、少し土の香りがする青菜です。同じ鍋でラコンと一緒に茹でることで、豚の脂と塩気を吸い、苦みが柔らぐ。塩気の強い肉と、苦い葉。この組み合わせが「ラコン・コン・グレロス」という定番になっています。
じゃがいもも同じ鍋で茹でます。皮ごと、丸ごと。豚の茹で汁を吸ったじゃがいもは、それだけで一品になる。素材を並べただけのようでいて、鍋の中では味が交換されている。素材で語るガリシアの流儀がよく現れた料理です。
仕上げに振るのがピメントン。燻したパプリカの赤と香りが、白い肉の上で映えます。プルポ・ア・フェイラと同じ仕上げ方で、ガリシアの皿にはこの赤がよく登場します。
祭りの日の料理
ラコンは、日常より祝祭の側にある料理です。
とりわけ結びつきが強いのがカーニバル。四旬節に入る前、肉を思い切り食べておく期間に、この大皿が食卓に上がります。ガリシアの町では、この時期にラコンを主役にした祭りが開かれるところもあります。
理由は保存食としての性格にもあります。冬に豚を屠り、塩漬けにして保存しておく。春先まで持たせたものを、祭りの日に一気に食べる。冬の食のリズムと暦が、料理の登場する日を決めていたわけです。
大皿でどんと出す。取り分けて食べる。この形式そのものが、少量ずつ楽しむタパスとは対照的で、家族や村の集まりのための料理だと分かります。ガリシアのエンパナーダと並べれば、祝いの席の完成です。
ワインとの相性
塩気があり、脂があり、青菜の苦みがある。この三つを受け止める必要があります。
まず挙がるのは、ガリシアの白。リアス・バイシャスのアルバリーニョは、キレのある酸とほのかな塩味で、豚の脂をすっきり流します。地元の料理と地元のワイン。理屈より先に、土地が答えを出しています。
赤なら、渋みの控えめな軽やかなものを。ガリシアの赤や、ガルナッチャの若い造りあたりが合います。しっかり冷やしたロサードも、パプリカの香りと相性がいい。
熱い料理には、冷えた酒。温度でワインの表情が変わることを、この皿はよく教えてくれます。祭りの日の豚と、海のワイン。ガリシアの食卓の話は、コラム一覧からもどうぞ。