店の名前は、看板であると同時に、自分たちへの宿題でもあります。毎日その名前を見るからです。
Opus 6(セイス)。二つの言葉でできています。
Opus ——作品番号
「Opus(オプス)」は、ラテン語で「作品」を意味する言葉。クラシック音楽で使われる作品番号、あの「Op.」です。
作曲家は、書き上げた曲に番号を振っていきます。Op.1、Op.2、Op.3——若い頃の習作から、円熟期の代表作まで、番号は途切れずに続く。そこには順序があり、積み重ねがあります。
料理も同じだと考えました。
一皿は、その日かぎりで消えてしまいます。食べれば終わり、形は残らない。けれど作り手のなかには、確実に積み重なっていく。去年うまくいかなかった火入れが、今年の一皿を支えている。その連続性を、番号という形で意識していたかった。
つまり「Opus」は、一皿を作品として扱うという宣言です。気楽に食べていただいて構わない。ただ、出す側は毎回それを作品として送り出している——という約束。

6(セイス)——スペイン語の「六」
「seis(セイス)」は、スペイン語で数字の6。
なぜ六なのか。特別な数字にまつわる物語があるわけではありません。ただ、六という数には、ちょうどいい落ち着きがあると感じています。
一は始まりすぎる。十は区切りが良すぎる。六は、その途中にある数字です。すでにいくつかを積み重ね、まだ先が続いている——そういう位置。完成を宣言せず、途上にいることを認める数として、しっくりきました。
スペイン語であることにも意味があります。シェフがスペインで過ごした日々がこの店の出発点にあり、その言葉を店名に残しておきたかった。日本にいながら、名乗るときだけスペイン語に戻る。小さなことですが、毎日の背筋が少し伸びます。
「六番目の物語」という読み方
Opus 6 を日本語で言い換えるなら、「六番目の作品」あるいは「六番目の物語」。
サイトのあちこちでこの言い方をしているのは、料理を物語として捉えているからです。素材には産地があり、調理法には歴史があり、皿の上のスペイン料理にはその土地の暮らしが映っている。それを一皿ずつ、順番にお伝えしていく。
コラムを「皿」「葡萄」「卓」の三つに分けているのも同じ理由です。料理の話、ワインの話、そしてそれを囲む卓の話。三つが揃って、ようやくひとつの夜になります。
番号は、まだ続く
作品番号の面白いところは、終わりが決まっていないことです。Op.6 のあとには Op.7 が来る。作曲家が書き続けるかぎり、番号は伸びていきます。
この店も同じで、六番目にいることは通過点にすぎません。今日出した皿が、次の一皿の土台になる。そうやって番号を重ねていく場所として、この名前を選びました。
芦屋・苦楽園という街の坂の途中で、六番目の物語を続けています。次の番号がどんな皿になるのか、作っている本人にもまだわかりません。
その途中に、ぜひ立ち会ってください。